ビジネス

2021.03.10

「なぜ漁師が稼げないのか」に本気で向き合う。異色のクリエイターが石巻から発信するデザイン

漁師と談笑する「フィッシャーマン・ジャパン」のアートディレクター安達日向子氏(右)


「漁師さんがもっと稼げるように」フィッシャーマンとの挑戦


石巻の地で、安達は初めて漁師の世界に触れた。早朝海に出て、朝日に向かって進む船上で海を見つめる漁師の姿。魚がたくさんかかった網を引き揚げて、鱗が舞う中で懸命に作業をするプロの手捌き。そして浜に戻ってとれたての食材で作った朝ごはんを食べる。そんな彼らの日常に深い豊かさを感じ、彼らへの尊敬の念が膨らんだ。

しかし、それと同時に漁師らの困窮した現状にやるせなさを感じるようになった。


 Photo by Funny!!平井慶祐

「漁師さんたちは“食”という私たちの生活には欠かせないロールを担っている。それなのに、なんで彼らみたいな一次産業の人たちはこんなに苦労していて、そんな彼らにお金が回らないんだろうって思うんです。彼らがちゃんと稼げるようになってほしい。そのために自分ができることをやりたいと思うようになりました」

安達の祖父が農業をやっていて、幼い時から「農業で稼ぐのは大変」という意識があった。農家の人が作ってくれる野菜や果物も、漁師の人たちが毎日海に出て獲ってくれる魚も、美味しい食材はみんな誰かの手を介在して自分の元に届いている。そのことを改めて実感した安達は、彼らにもっと日の目が当たり、一次産業を底上げすることで、みんながハッピーになれる道を探したいと決意を新たにした。

色々な漁師に会い、対話を重ねる中で見えてくる問題の数々。最も深刻だった漁師の後継者問題では、フィッシャーマン・ジャパンの注力事業の一つとして、次世代の新人漁師のリクルートや移住環境の整備を進め、目覚ましい成果を挙げた。浜に若者が増え、外から新しい風が舞い込むことにより、ITやデザインなどの活用も進み、画期的な取り組みがどんどん生まれていった。

古い慣習やしがらみが根強かった水産業で、目まぐるしい変化を巻き起こしていく石巻を見て、別の浜や県外のフィッシャーマンたちからも「俺たちもやりたい」という前向きな声が届くようになった。

PRから仕組み作りまで。日本中の水産業の課題と向き合う


エリアを限らずもっと多くの地域や人と一緒にアクションを起こせれば、日本の水産業全体が抱える問題や海洋環境の問題にも、より包括的にアプローチ­できる。安達らは、海の課題をクリエイティブに解決するチーム「さかなデザイン」を立ち上げ、安達はその代表兼クリエイティブディレクターに就いた。

日本の最北端、利尻島(北海道)の漁師たちによる漁師団体の立ち上げをサポートし(「NORTH FLAGGERS」)、藍島(福岡県)では漁師団体の立ち上げを手伝いながら、職人漁師による最高級の鰆の魅力と価値を伝えるプロジェクト「藍の鰆」も展開した。


(c) さかなデザイン

最近では、漁業のオペレーションにIoTを取り入れ、仕組みから変えていこうという取り組みも進んでいる。ITを使って、漁師らみんなでスケジュールや魚の値段の推移などを共有するだけでも、その日の働き方や意識が変わってくる。そこにIoTのスペシャリストが入って、ビッグデータを蓄積し、映像情報も共有しながら紐付けられれば、燃料代や人件費の削減、仕事の効率化にもつながる。
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文=水嶋奈津子

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