朝日新聞外交専門記者

米国のブリンケン国務長官(Photo by Alex Edelman-Pool/Getty Images)

1月にホワイトハウスを去ったトランプ前米大統領は、国際社会から「自国の利益ばかりを優先した」と批判された。しかし、外交はよく「武器を使わない戦争」に例えられるように、その究極的な目的は、自国の利益の追求にある。ただ、米国は自他共に認める超大国であるがゆえに、「ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)」のような立ち居振る舞いが求められてきたし、自身もそのように行動するよう努めてきた。だから、トランプ氏の行動は批判された。

知り合いの米外交官は、「我々は超大国だから、まず相手の話を聞かなければならない。小さな国は激しい言葉を唱えれば良いが、米国は影響が大きすぎるのだ。そう先輩たちから教えられてきた」と語る。

バイデン政権は最近、日米韓協力を繰り返し強調しているが、日韓両国に対し、「日韓で仲良くしろ」とは決して言わない。内政干渉になるのは勿論、米国が全てを仕切る外交は好ましくないと米国自身が自覚しているからだ。

そんな米国の姿勢を示す一つの例が、世界の領土問題に対する中立的な立場の維持だ。世界には依然、南沙諸島やジブラルタルやカシミールなど、様々な領土問題が存在している。米国は、領土問題の背景にある複雑な歴史や民族感情などに配慮し、当事国のどちらにも肩入れしない中立の立場を取っている。

ところが、そんななか、ほぼ唯一と言って良い例外がある。北方領土だ。米国の歴代政権は「北方領土の主権は日本にある」と繰り返し、指摘してきた。

これは、外交史上で有名な「ダレスの恫喝」と関係がある。1956年8月19日、重光葵外相はダレス米国務長官と会談した。当時、歯舞・色丹の2島返還で領土問題を妥結するという動きがあった。ダレス氏は、日本側が国後、択捉両島に対するソ連の主権を認めた場合、米国は沖縄領有を主張する考えを伝えたとされる。米国は、日本の妥協を許さない代わり、北方領土に対する日本の主権を認めるようになった。

その一方、先述したとおり、米国は尖閣諸島について、日本に主権があるとは認めず、施政権があるとの立場を取ってきた。戦後秩序が固まったサンフランシスコ講和条約当時、台湾も尖閣諸島について領有を主張していたからだ。日米安保条約5条は、対象地域を「日本の施政の下にある領域」としているため、米国が防衛の義務を負う対象に北方領土は含まれないが、尖閣諸島は含まれることになる。

中国が漁船や公船による尖閣諸島周辺海域への侵入を繰り返すのは、「日本の施政権」を破壊し、日米安保条約の発動を防ぐ狙いがあるともされた。このため、米上院は2014年11月、国防権限法につく付帯条項として尖閣諸島について「第三者の一方的な行動が、日本の施政権を認める米国の立場に影響することはない」とする条項を可決した。これによって、中国が日本の施政権を侵す事態に至っても、尖閣諸島が日米安保条約の対象であり続けるという保障が与えられた。

文=牧野愛博

この著者の記事一覧へ

PICK UP

あなたにおすすめ