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朝日新聞外交専門記者


ただ、中国はそんなことにもお構いなく、尖閣諸島に対する圧力をエスカレートさせている。2月1日には、海上保安機関である海警局の武器使用条件を定めた海警法も施行した。中国の挑発行為が続くなか、米国も超大国として悠然と構えているわけにもいかなくなっている。

実際、複数の日米関係筋によれば、米国は昨春、日本政府に対して米沿岸警備隊が尖閣諸島周辺で、日本の海上機関と共に行動する準備があると非公式に打診していた。米沿岸警備隊は治安機関であるとともに米軍の一部門という性格があるため、行動する相手については海上保安庁あるいは海上自衛隊と明示はしなかったという。だが、日本政府はこの打診を受け入れなかった。当時の安倍政権が習近平中国国家主席の訪日を進めているなか、中国を不要に刺激したくないという思惑が働いたとみられる。日本側の関係者の1人は「海保のなかに、米軍の一部門でもある沿岸警備隊と一緒に行動することに慎重な意見もあったようだ」と語る。

そして、米国防総省のジョン・カービー報道官が2月23日の記者会見で尖閣諸島について「日本の主権を支持している」と発言した。日本側で米国が従来の立場を踏み越えたのかという声が上がった。だが、カービー報道官は26日の記者会見で、「私の間違いで混乱を招いた」と釈明し、「主権を巡る米国の政策に変更はない」と軌道修正した。日本の安保専門家の1人は「カービー氏はおそらく、歴史的な経緯がよく頭に入っていなかったのだろう」と語るが、逆にいえば、米国側に尖閣諸島を巡る危機意識が強まっている状況を浮き彫りにしたとも言える。

この専門家は「そもそも、米軍兵士が将来、尖閣諸島の領有を巡って戦う日が来る可能性が高まっているというのに、その主権がどこにあるのかを認めないというのもおかしな話だろう」と語る。尖閣諸島の大正島、久場島は米軍の射爆場にもなっている。

米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は初めての外遊として、15日から日本を訪問する。それだけ、中国の脅威を深刻に捉えているからだろう。ブリンケン氏は3日のテレビ演説で「中国は安定して開かれた国際システムを著しく脅かす経済力、外交力、軍事力、技術力を備えた唯一の国だ」と語った。

台湾が領有の主張を取り下げたわけではなく、米国も簡単に日本の主権に言及できない状況ではある。ただ、米国が日本の主権に言及しない理由のひとつは、「中国のエスカレーションを招くかも知れない」(日米関係筋)という配慮からだった。中国の挑発が高まる一方の今、米国が北方領土と同じように、日本の尖閣諸島に対する主権を認める日が、そう遠くないうちにやって来るのかもしれない。

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文=牧野愛博

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