パリ・軽井沢二拠点居住者のライフスタイル アール・ド・ヴィーヴルの実践とは

パリと軽井沢で二拠点居住されているダルジャン酒井聡子さん

本稿では、ここ数年軽井沢に移住・二拠点居住され、新しいライフスタイルや価値観を持っている方々にインタビューすることで、今後のリゾートテレワーク・ワーケーションの可能性、地方創生の可能性を予測している。

トロント大学ビジネススクールのリチャード・フロリダ教授が、クリエイティブ・クラスが集積する地域はイノベーションが起きやすく、またそのような地域は多様な文化や価値観を受け入れる寛容性が高い特徴があると述べている。軽井沢では、ここ数年移住された方にクリエイティブ・クラスが多いことに気づく。

今回は、特にその中でも海外経験の豊富な方の移住や二拠点移住が増えていることにも着目。これからの新しい時代をリードしていくであろう「次世代型クリエイティブ・クラス」の考察を深めていく。

第8回は、ご幼少のころからご祖父母の軽井沢の別荘によく来られ、大学卒業後金融機関勤務を経てフランス人と結婚、2019年旧軽井沢に「ラ・メゾン軽井沢」をオープンしたことで、現在パリと軽井沢で二拠点居住されているダルジャン酒井聡子さんにインタビューする。

フランスはバカンス(バケーション)の国と言われ、夏になると1カ月以上もバケーションを取るイメージがあるが、実はバカンスを1か月以上とれるようになったのは40年前と意外と歴史は浅い。

フランスが現在のような長期バカンスが当たり前になった歴史的経緯を見ると、それまでは貴族、ブルジョアの特権だったバカンスが、1936年に人民戦線のレオン・ブルム(Léon Blum)首相が2週間の有給休暇制を決め労働階級にもバカンスの権利を与えたところから始まる。以降、段階的に増え、1982年に現在の5週間となり、2002年に当時の労働相マルティン・オブリ(Martine Aubry)が制定した週35時間労働制で更に加速した経緯がある。

比較的短期間で長期バカンスが浸透したのは、欧州内で休息の必要性の議論が高まっていたことを背景に、社会構造(階層格差が大きい)、組合の強さ、官民が一体となり低予算で休暇を楽しめる策(安価な宿泊場所の整備、宿泊や鉄道料金の補助)を打ったことが大きい。富裕層に強い反感を持つ労働階級がすぐにこの制度を活用し始め、当然の権利となって行った。

日本型リゾートテレワーク・ワーケーションを普及させるには何が重要なのだろうか? 今回はフランスのライフスタイルと比較することで、「次世代型クリエイティブ・クラス」による新しいワーケーションの普及のカギを探る。

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旧軽井沢の軽井沢会テニスコート近くの木立の中に佇むダルジャン酒井聡子さんが運営されている「ラ・メゾン軽井沢」の紹介制のサロン(エスタミネOctave)。フランス家庭料理とワインと共に、会話を楽しむ場所。

都心から1時間程で感じられる「隔絶感」


鈴木幹一(以下、鈴木):最近軽井沢では、移住者が急増しています。特に酒井さんのような海外経験の豊富な方の移住や二拠点居住が増えています。皆さん活発に交流されていると聞いていますが、そのあたりいかがでしょうか?

ダルジャン酒井聡子(以下、酒井):軽井沢には、私のような国際結婚組と共に、日本人のご家庭でお子さんがインターナショナルスクール、海外留学させている(いた)、海外在住後移住された方等、海外との関わりが深いファミリーはとても多いです。

元々ご夫婦のどちらかが軽井沢に別荘を持っているケースも多く、留学、外資系勤務など海外との接点の多い環境から日本の拠点を考える時、海外と似たライフスタイルができる軽井沢を考えるのは自然かもしれません。

休暇の時期、夫婦単位の行動パターンなどライフスタイルの共通点が多いことから繋がり、一緒に過ごすことが多いです。フランスではバカンスの一部(2カ月のうちの1〜2週間など)を遠方に住んでいる友人家族と重ねることも多く、子供には年に一度だけ会う「バカンスの友人」が存在するのですが、必ず誰かが来ている軽井沢でもそれができるのは嬉しいです。
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文=鈴木幹一

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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