パリ・軽井沢二拠点居住者のライフスタイル アール・ド・ヴィーヴルの実践とは

パリと軽井沢で二拠点居住されているダルジャン酒井聡子さん


鈴木:1か月ものバケーションを取るのが当たり前のフランスでは、テレワークは定着していますか?

酒井:COVIDがきっかけで初めて前進したと言えます。最近の統計だと、外出禁止期間中、ホワイトカラーの4分の3がテレワークに移行。テレワークの継続を希望する75%のうち4割が週2回のテレワーク、2割が完全テレワークを希望しているようですが、直の対話、付き合いがとても大切なフランス人なので、納得できる数字です。

既に大企業の600社程度が週2日出社を前提としたテレワーク継続を決めたようですが、労働組合が、テレワークに関わる費用負担(通信費や機器購入費用など)、学校がない時の保育の問題、男女格差等詳細な条件を交渉しているため合意への時間はかかるでしょう。でも、当初戸惑っていたフランス人も自由度が増えることに抵抗はないはずなので、テレワークの浸透は日本より比較的スムーズではないかと思います。

人生への意思を持ち、行動する


鈴木:人生100年時代豊かなライフスタイルを過ごすためには、何が一番大切でしょうか?

酒井:家族、仲間と食卓を囲み、きちんと食べ、飲み、実りある会話を楽しむ!自然、芸術に触れ、体を動かすこと! ラ・メゾンとエスタミネOctaveでできます(笑)。

経済合理性、物質的なところから離れ、誰でもない自分にとって大切な事、ひいては人生の意味を認識すると、自ずとやりたいこと、望むライフスタイル、心身が心地よい居場所が見えて来て、そこに美学があれば、人を幸せにできると信じています。

フランス人がよく使う言葉の中に、「C’est la vie(It’s life)=これも人生」、「Comme tu veux(As you like)=貴方の好きなように」というのがありますが、まさにその通りだと思っていて、流れを受容しつつ、異なるものを尊重する。これが進めば、本当の多様化が進み、幸福感がさらに増す社会になると思います。

鈴木:軽井沢への想いをお聞かせください。

酒井:繰り返しですが、軽井沢は外の人間によって変化がもたらされてきた町で、地元の方も比較的受け入れてくださる土壌があると言われていますが、だからこそ責任を感じます。
 
ルーツを知ってこそ美しいものが生まれると思うので、進化過程での取捨選択を間違わないよう歴史や文化を知り、自分の故郷としての軽井沢という目線で文脈に沿ったことを考え、町を作るパズルの1ピースになれればと思っています。

個人的には、軽井沢は伝統を守りながらも移民と共存し、ゆっくりと進化していくという点でパリ的変化が合っている気がしています。とはいえ、グローバリゼーションを理由に新しいカルチャーが生まれたベルリン的な面もあるので、うまく融合するといいと思います。

鈴木:最後に、次世代テレワーク・ワーケーションはどのようなものになるとお考えでしょうか?

酒井:インフラさえあれば国、企業をまたいで働ける時代ですが、これはあくまでもスペックの話で、働き方とは生き方で、一人一人が選ぶのが当たり前であるというメンタリティの社会になって初めて本当の意味でテレワークが定着すると思います。

目に見えない価値が高まり、企業も存在の意義が問われ、お金、思い、時間の投じ先、質を再考する流れの中、テレワークの議論は既存の仕組み、固定化された概念の枠組みを前提としたものから、十人十色の暮らし方にそぐう現実的な環境整備に移行すると共に、大切なのは、個人(従業員)が自らの人生への意思を持ち、行動することではないでしょうか。

テレワークの最大の課題は子供の保育かと思いますが、軽井沢に関して言うと恵まれた自然、安全で、カーリングやスケートリンクなど他には類を見ない充実したスポーツ設備も揃い、アクティビティが充実していることはとても大きなポイントです。車社会なので、子供の移動を容易にする公共交通機関の整備、教育機関、アフタースクールが今より更に充実すると、更にテレワークのしやすい環境が整うと思います。

メンタリティの変革は時間がかかるものですが、こう言った利点に加え、軽井沢には外国人を含めた多様なコミュニティという人的資源、教育、文化を育む土壌、精神的価値に目を向け、受け入れる環境もあるので、サンプルとなるテレワークを発信できるポテンシャルを秘めていると思います。
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文=鈴木幹一

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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