パリ・軽井沢二拠点居住者のライフスタイル アール・ド・ヴィーヴルの実践とは

パリと軽井沢で二拠点居住されているダルジャン酒井聡子さん

生産性を高めるために不可欠な休息


鈴木:日本では1カ月も休暇を取る文化はありません。バケーションを1か月も取るとボケっとしてリカバリーが大変だと思いますが、フランスの方はバケーションをどのようにとらえていますか?

酒井:フランス人はバカンスのために働くと言われていますが、実は逆で、バカンスは仕事・勉強の生産性を高めるための不可欠な休息の時間としての当然の権利です。働かないイメージがありますが、実は生産性は日本より遥かに高いのです。Vacancesの語源はラテン語のvacare(=空、時間がある)、英語だとvacant、つまり、心身ともに空っぽになる時間です。

週末は郊外で自然に触れ、友人や家族とおしゃべりを楽しみ鋭気を養うのはごく普通のルーティーンですが、心身共に空っぽな状態にするには長い休みが必要なので、早い人は1年前から計画を立てます。別荘を所有する優先順位が高いのも、それほどバカンスの重要性が高いからです。

null
ラ・メゾン軽井沢の食器、小物等は酒井さんが一点ずつこだわって、フランスから持ち込んだものが殆ど。

鈴木:フランスではバケーションのスタイルはどのようなものがありますか?

酒井:階層格差が大きい社会なので、層によってバカンスの行き先、滞在先、期間も大きく異なりますが、2〜3週間程度、国内の友人宅や安価な宿や貸別荘を借りてのんびり過ごすパターンが多いと思います。長期貸前提の物件数は多く、価格帯もかなり幅があります。

管理職、医師、弁護士等いわゆるエリート層は冒頭で仰っていた35時間労働制の対象外であるものの、元々バカンスの習慣があった所得が高い階層で、有給日数も相対的に多く、結果どの階層においてもバカンスは浸透しています。

子供の夏休みは約2か月ですが、地方公共団体、学校が安価のキャンプやイベントを数多く提供、会社、大家族への国からの様々な補助、国内を3つの学区に分け混雑を回避する等様々なインフラも整備されています。子供を一人で飛行機に乗せられる国内航空会社の年齢規定も4歳からと早く、我が家も良く利用しました。

null
夏休み中の空港には、一人で祖父母や友人宅を訪れるUnaccompanied Minorと言うシステムで旅する、首から札を下げた子供たちがたくさん

バカンス定着の背景には、社会システムの充実に加え、人間関係に重きを置くメンタリティの存在がとても大きいです。友人家族とバカンス先で合流、子供だけ預かる、祖父母に数週間預ける等、バカンスは自分のリセットのみならず、人間関係のキャッチアップも大きな目的です。

子供にとっても、他の家庭と過ごす時間を通して、両親以外の大人や年齢の違う子供とのコミュニケーション、マナー、表現力等のスキルと共に、大人の時間との線引き、自分の環境の客観視、そして、社会での人との距離間など数多くのことを習得するいい機会で、休み後の子供の成長は毎回目を見張ります。

因みに8月は、特にパリのレストラン、お店は殆ど閉まり、国の機能もかなりスローダウンします。以前いたフランス系の会社では、当時は引き継ぎもなく担当者が戻ってくるまで何も進まず苦労しました。今となっては当たり前と思いますが、当時は日本人のお客様との間に立ち、なんとかしようと片端から本部に助けを求めていたことをよく覚えています。

高度成長期よりは短期化(2〜3週間程度)、分割取得も増えるなど変化も見られますが、仕事を手段として捉え家族や友人との時間を大切にする文化、組織への帰属・同化意識が低く個人の権利の主張が強い国民性が、バカンス文化を根強いものにしていると感じます。バカンスに纏わる映画も数多くあるのもそれを表していると思います。

null
7家族が大集合し、アペリティフを楽しむ。大人が楽しむ間、大きい子供たちが小さい子供達の面倒を見る。
次ページ > 人生の意味を認識する

文=鈴木幹一

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事