パリ・軽井沢二拠点居住者のライフスタイル アール・ド・ヴィーヴルの実践とは

パリと軽井沢で二拠点居住されているダルジャン酒井聡子さん


本質からの視点を大事にし続ける


鈴木:アール・ド・ヴィーヴルは、軽井沢の風土にとても似合っています。以前軽井沢の発地市庭でフランスフェア(フランス大使館後援)や、アペリティフイベントを開催したことが有りますが、いずれも大変盛況でした。ゆったりとした時間を過ごすフランスのライフスタイルは、明治時代の万平ホテル・三笠ホテルに端を発するサロン文化と共通しています。軽井沢にはそのようなライフスタイルの美学が脈々と引き継がれています。

日本人は儒教の教えに端を発する和を重んじる組織主義と言えます。一方フランス人は、例えば最近のワクチンを巡る動き(ワクチンに拒否反応を示す人が多かったのが、すぐに受けられないとなった途端「権利」を主張するようになった)からも個人主義の強さが見て取れますが、そのあたりフランスにお住いのご経験からいかがでしょうか?

酒井:おっしゃる通り、サロン文化は18世紀のフランス啓蒙時代から始まり、自然と共存できる軽井沢とは通ずるところは多いですね。フランスでは今も会話や文化を楽しむ時間が多いと言う点では、日々の生活もサロン的であると言えるのかもしれません。

フランスは、ぶれることなく、人との繋がり、日々の営み、本質からの視点を大事にし続ける成熟した国だと感じます。受容性もあり、驚くほど変化が早い側面もあります。

消費など経済活動に繋がることよりも、自分軸に沿っているか否かで価値を判断し、誰もが根源的な欲求を問い、個人主義だからこそ、表現、対話することで、自分の美学、思考への思索を重ねることをとても重視しています。

「社会は個が集まって作られている」と日々実感しますが、このような人間くささがフランスで好きなところです。勿論、権利主張の強さが妨げていることも多々あるのですが!

私の場合は仕事を辞め、フランス語も話せず、肩書もなく単身で渡仏したので、自分を深掘りせざるを得なかったのですが、そのお陰で強みと共に限界も認識でき、等身大で人と向き合って創造する喜びを実感するようになりました。日本社会にいた時は、もう少し合理性や型に軸足があったと思います。

元々人をもてなすことが好きでずっとホスピタリティビジネスをするつもりでしたが、集団を重んじる日本で「個」に重きを置き、時間・空間を共有する豊かさを感じるきっかけとなる「場」に発展させたいと考えるようになり、作ったのが「ラ・メゾン軽井沢」です。

色々な場所を訪れ、人、環境ともフランスと類似点の多い軽井沢に落ち着いたのは、幼少時からの思いに加え、数々のご縁に導いて頂いたと思っています。

鈴木:「ラ・メゾン軽井沢」では、どのようなイベントをしているのでしょうか?

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ラ・メゾン開業のご縁の一人、一般社団法人軽井沢ナショナルトラスト副会長の佐藤袈裟孝さんによる「軽井沢のルーツ」セミナー。生粋の地元の方から軽井沢の生の歴史を学ぶ貴重な機会。

酒井:広義の文化イベント、及び、軽井沢に纏わるイベントと大きく二つに分けて考えていて、コンセプトに共感してくれる方々と共にできればと思っています。

直近では、軽井沢の歴史を知るイベント(写真上)や、パリのコンセルヴァトワールを卒業後プロデビューした若手日本人ギタリストのコンサート(写真下)を行いましたが、このような文化イベントでは、芸術が暮らしの中に溶け込む「時間と空間の提供」を目指しています。

自然の中で五感を研ぎ澄まし、私自身のこだわりで飾った家で心づくしの食やワイン、そんな人の家に呼ばれたような感覚で、上質の表現を通したアーティストとの対話を楽しむ。アートの身近さを感じ、そこからの感動を人と共有する時間を過ごして頂けたらとても嬉しいです。

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国際コンクールで多数の賞歴を重ねたプロギタリスト(日本コロムビア秋田勇魚氏)の演奏。薪ストーブの前でワインと家庭料理と共に和やかに楽しむサロンコンサートには、地元、東京をはじめ日本各地から様々な方が参加し大好評。
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文=鈴木幹一

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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