パリ・軽井沢二拠点居住者のライフスタイル アール・ド・ヴィーヴルの実践とは

パリと軽井沢で二拠点居住されているダルジャン酒井聡子さん


鈴木:軽井沢はなぜ欧米の方に人気なのでしょうか?

酒井:まず、外国人の転地療養地として発展した歴史的背景から、他所者、外国人を受け入れてくれる土地のメンタリティ、そして欧米的な価値観も存在するので居心地がいいのだと思います。友人がいることで別荘購入・移住を決めるケースも多いです。

庭も大きく、塀もなく、自然と一体感のある住環境やスポーツのバリエーションの多さ、東京からの距離等物的な理由もありますが、何より、家での時間を大切にしますので、都心から1時間程で感じられる「隔絶感」が大きいと思います。

フランス人の多くが軽井沢の魅力について言うことは、1. 自国と近いライフスタイル(自宅ベースの社交、自転車、ハイキングなどのスポーツへのアクセス)、2. 町並みの美的統一感、3. 独創的な建築物、4. 食文化の高さ、例えばお肉屋さん、パン屋さん、ジャム屋さんなど上質な専門店の多さ等です。

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軽井沢産の食材をふんだんに使い、緑を見ながら外で気軽に食事する時間を楽しむ。

鈴木:フランス人の方々は、フランスと軽井沢のライフスタイルが似ているところを気に入られていますね。それはまさに、軽井沢の歴史の本で良く出てくる明治・大正時代の軽井沢の風景そのものです。酒井さんはパリと軽井沢で二拠点居住されていますが、ライフスタイルの使い分けはありますか?

酒井:コロナ前、開業準備期間から毎月パリと日本を往復する生活でした。現在はリスクを避けるため移動を減らし、長期滞在を心がけています。仕事柄、他の方とは逆に軽井沢は仕事場で刺激を得る時間の比重が多く、パリは家族や友人とゆっくりと過ごす日常、及び、精神的インプットの場所になっています。

実際にはパリでの仕事も多いのですが、フランスは家のつくりをはじめ、日常生活そのものが人生の楽しみを感じさせ、何かしら自分への問いかけをくれるように出来ている感覚があります。デラシネ的な思いもありますが、国籍や居住地を超えて自分軸を掘り下げる事がとても楽しく、変化も楽しめ、心から有難いと思っています。

鈴木:旧軽井沢で運営されている「ラ・メゾン軽井沢」はどのようなコンセプトの施設なのですか?

酒井:あまり知られていないのですが軽井沢の聖地と言われている大塚山(だいづかやま)の麓にあり、上皇様ご夫妻が出会われた「軽井沢会テニスコート」の裏手の小さな一軒家で、一棟貸・貸別荘型の宿泊部分(La Maison)と、私がフランスの自宅で来客時にも作る家庭料理と主人が選んだワインでおしゃべりを楽しんで頂く紹介制のサロン部分(エスタミネOctave)が併設しています。自主イベント、場所貸も行う多目的な施設です。

宿泊、サロンでの食事や対話、イベントを通じ、自身のアール・ド・ヴィーヴルを意識するきっかけの場となればと思っています。休暇を満喫する滞在、ワーケーションとしてのご利用はもちろん、ワインと共に時間を楽しむためにお使い頂きたいです。

アール・ド・ヴィーヴル(Art de Vivre=Art of Living)というフランス語は広義で、様々な訳し方がありますが、私は「美学を持って、楽しく生きるためのあらゆる工夫」と言っています。対話、食、住、学びなど、自分の好きな日常の出来事や時間をアートの様に捉え楽しむことで特別感を与え、人生をより深く、豊かなものに変化させようとするフランス人の生活信条のようなものです。

マルシェで知らない人と食材のストーリーや好きな料理法、思い入れを語る、よくあるシーンですがこんなことを心から楽しむことも一つです。

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「ラ・メゾン軽井沢」は、秋になると燃えるような紅葉が美しく、縁側に座って楽しむ時間がゆっくりと流れる
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文=鈴木幹一

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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