ビジネス

2021.03.09

石巻から日本の水産業を変える。異業種とコラボする漁師ら10年の軌跡

奮闘するフィッシャーマンら


そんな縦割り主義と利己主義から脱するために、フィッシャーマン・ジャパンでは、水産業の仕組みに関わる全ての人を「フィッシャーマン」と呼ぶ。

魚を獲る・育てる、加工する、卸す、販売する、その全フローに携わる全員が頭を突き合わせることで、より広い視野と影響力で共通の課題に向き合うことができ、浜や水産業全体の底上げを目指すことができる。その魚を調理して提供する飲食店、情報発信や企画を手がけるクリエイターたちも、みんなチームの一員として参画する。

問題を一緒に解決しようとする過程で仲間意識も育まれ、作業で人数が必要な時や困っている時にはみんなで助け合う風土もできてきた。

「漁師になりたい」若者たちのために


フィッシャーマン・ジャパンは「2024年までに新フィッシャーマンを1000人創り出す」ことをミッションに掲げている。その核となる若手漁師を増やすためには、「漁師になりたい」と思う人を創出することに加えて、漁師志望の若者たちを受け入れるための環境整備も欠かせない。


 Photo by Funny!!平井慶祐

「トリトンプロジェクト」では、漁師専用のシェアハウスを運営し、短期で気軽に体験できる学びの場を作り(トリトンスクール)、漁師や水産業の仕事とのマッチングも担い(トリトンジョブ)、若手漁師の仕事、暮らし、コミュニティをトータルでサポートしている。

元来世襲制が多かった漁師の仕事には、外から人を雇うという仕組みや習慣がなかった。月給制で給料を支払い、各種保険等を用意するところから、漁師とプロジェクト担当者が二人三脚で仕組みを作っていった。初めは受け入れに後ろ向きだったとある漁師も、今では二人の弟子を抱えて「親方としてこの子を守っていかなきゃ」と意気込む。愛弟子の成長のために、自身の収入を減らしてでももう一人後輩を雇おうと画策する親方もいる。

「ああいう子だったら俺のところにも欲しい」という声が広がり、親方の意識も変わり、どんどんオープンになっていく。若者を受け入れることで、浜の雰囲気もグッと良くなり活気が溢れるようになった。


 Photo by Funny!!平井慶祐

トリトンプロジェクトでは、2015年に発足してから今までに、約40人の若手漁師を県外から迎えている。石巻市の2014年の新規漁師は4人、その全員が親の仕事を継いだケースだったことを鑑みると、リクルートや移住促進という側面から見ても大成功と言えるだろう。

トリトンスクールをきっかけに実際に漁師になった若者の一人は、すでに正組合員となり、一人前の漁師として活躍している。移住先の石巻で生涯の伴侶を見つけて父親となり、石巻を基盤に家庭生活と漁業を両立させている若者もいる。

全国の水産業の課題を解決するために。『さかなデザイン』結成


水産業の衰退に歯止めをかけ、日に日に活気付いていく石巻を見て、他県の漁師たちも立ち上がった。「俺たちの浜でも何かやりたい。手伝ってほしい」。そんな相談が安達らの元にたくさん舞い込んでくるようになった。

そこで、日本全国の水産業や海の課題を解決するためのチームとして、2018年、新たに「さかなデザイン」が結成され、安達はその代表兼クリエイティブディレクターに就いた。
次ページ > 海洋資源を守りたい漁師たちのために

文=水嶋奈津子

ForbesBrandVoice

人気記事