濱口竜介監督は、1978年、神奈川県生まれの42歳。東京大学文学部在学中は映画研究会で活躍。卒業後は映像関連の仕事に就くが、2006年、前年に新設された東京芸術大学大学院映像研究科に入学。同学科の教授であった黒沢 清監督に師事する。
2008年、研究科の修了制作であった「PASSION」 が、サン・セバスチャン国際映画祭やカルロ・ヴィヴァリ国際映画祭などに正式出品され、早くも世界の舞台へと進出することになる。
濱口監督の名前が広く知られるようになったのは、2015年、上映時間が5時間17分の長編映画「ハッピーアワー」が、第68回のロカルノ国際映画祭の国際コンペティション部門で最優秀女優賞を受賞したことがきっかけだった。
「ハッピーアワー」は、これまであまり演技経験がなく、この作品が映画初出演となる4人の女性(田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら)を主役に据えた3部構成の作品。事前にワークショップに参加して演技指導を受けていたとはいえ、彼女たちが「最優秀女優賞」を得たのは、まさに濱口監督の演出力に負うところが大きい。
2018年には、濱口監督自身、初めての商業映画となる「寝ても覚めても」がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、高い評価を得る。フランスのメディアにも、「人間の魂を追求する、比類ない映画」(Le Monde紙)、「カンヌで栄誉を与えられるべき作品」(Libération紙)、「冒頭のシーンから、胸が高鳴る」(Paris Match誌)などと絶賛された。
ちなみに、このときカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞したのが、同じく日本から出品されていた是枝裕和監督の「万引き家族」である。もし異なる年に出品されていたら、「寝ても覚めても」の受賞もあったのではないかと思わせるほどの現地での好評価だった。
また濱口監督は、昨年の第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した黒沢 清監督の「スパイの妻」では、初期段階からオリジナルでの脚本づくりに参加。東京芸術大学大学院で師事した黒沢監督と強力な師弟タッグ(もう1人同じく映像研究科出身の野原位も参加)を組んで、受賞の栄誉に浴している。
「万引き家族」に続く作品になるか
ある意味、海外の「映画祭慣れ」しているとも言える濱口監督だが、意外にも主要な映画祭で自身の作品が正式に賞に輝いたのは、この「偶然と想像」が初めてだ。ベルリンでの授賞式と一般上映は6月に行われる予定だと言うことだが、まだ日本での上映は決定していない。