ビジネス

2021.03.07

バンド活動は究極のチームマネジメント

NTTドコモに入社し、アメリカの子会社の社長を経て、現在は日本でコーポレートベンチャーキャピタルの社長を務める稲川尚之。その仕事の原動力ともなっている「バンド活動」の魅力について聞いた。


スタートアップやイノベーション機会の発掘に取り組み、国内外のベンチャー企業等への投資とサポートを行うコーポレートベンチャーキャピタル「NTTドコモ・ベンチャーズ」で、2度目の社長業を務めています。約25年のビジネスキャリアのスタートは、電話通信設備工事の設計担当。

そのころは課長と飲みにいっては「英語を使う仕事がしたい」「海外に行って活躍したい」と、訴えていました。

念願叶(かな)った31歳でのMBA留学。人生でいちばん勉強しました。学期中は夜の2〜3時まで勉強が終わらない。しかも翌朝8時の授業にリポートを提出しないといけない。それで酒を飲んで、寝坊しないようにソファで寝るなんてことがザラでした。とにかく毎日必死に勉強した結果、頭が本当によく動くようになったし、同じ経験を共有できた仲間はいまも宝です。

趣味は「バンド活動」です。幼少期にピアノを習い、中学でギターを始め、ずっとギター一筋でしたが、10年前にベースに転向しました。いまは大好きなビートルズのトリビュートバンドを3年ほど続け、ポール・マッカートニーのパート、ベースとボーカルを担当しています。

ベースは、リズムパートでありながら音階を奏でられるのが魅力であり、そのグルーヴ感や高揚感をいったん体験すると、やめられません。しかもベースを弾きながら歌うというのはかなりの技量が必要で、ちょっと“変態”の領域です。現在のメンバーは、上は古希を迎える方までおり、バイク乗りやバス釣りのようなノリが本当に楽しい。週末はだいたいスタジオ練習と月1回のライブで終わっていますが、妻には結婚するときに「バンドだけは続けさせてください」と平身低頭お願いしたので(笑)、許してもらっています。

バンド活動は、チームマネジメントそのものだと思います。ボーカル、ギター、ベース、ドラム、ピアノのそれぞれが自らの役割を果たさねばならず、替えがきかない。例えば4週間後のライブで10曲演奏するとして、その期間中に成果を出さなければ、ほかのみんなの成果をゼロにしてしまいます。リーダーを務めるバンマスは、次々起きる揉め事に対処せねばならない。「なんで練習してこないんだ!」というメンバー同士の喧嘩(けんか)を仲裁したり、リハーサルに遅れるメンバーを叱ったり、メンバー同士が恋愛沙汰の末、脱退するというのを引き止めたり(笑)。ライブ会場を押さえ、チケット代を決め、お客様を集めて、利益も出す。この一連の作業はスキルがないとダメで、できる者同士だと阿吽(あうん)の呼吸でやるべきことをやれるようになります。

しかもバンドがいいのは、全員がフラットな関係というところ。加えて、一つの芸を磨くと、普段も自信をもてるようになることでしょうか。そういえば以前、シリコンバレーに駐在していたときも現地のアメリカ人たちとバンドを組んでいたのですが、帰国が決まった際に自分のパートの代わりを見つけて引き継いだら、ふつうはただやめていくだけなので、すごく驚かれて。「日本人ってすげえな。それは禅の教えなのか?」と(笑)。忘れがたい思い出もたくさんある、それがバンドです。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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