加速する「スポーツメディア・コンテンツの複雑化」大いなる再統合の時代へ|PwCスポーツ産業調査2020(中)

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また、OTT及びソーシャルメディアの台頭により、スポーツメディア市場は権利の細分化が進んでいる。こうした権利の細分化は、ファンにとってはチャネルの乱立により自身の興味がある種目・コンテンツを提供する複数のプラットフォーマーとの契約を強いられることとなり、場合によっては不正なストリーミングに走らせてしまう。

こうした課題を抱えたスポーツメディア市場ではあるが、PwCは一部のコンテンツ事業者やテクノロジー企業がスーパーアグリゲーターとなる「大いなる再統合(Great Reconsolidation)」を予想する。

実際に、今回の調査によると、今後数年はこうした“断片化”や“配信企業の乱立”の継続を予想する声が約半数(53.0%)存在する一方、“総合的なコンテンツライブラリを持つ少数のスーパーアグリゲーター”の出現を予想する声も一定数(47.0%)存在している。

・スポーツメディア情勢は今後3〜5年間にどう変わる?(回答者の割合、2つのうちいずれかを選択)

スポーツメディア情勢アンケート2
出所:PwC分析、n=660

メディア消費が再統合された未来では、権利所有者は保有する権利パッケージを多くのパートナー企業に(場合によっては独占性を廃し)分配することで収益を上げ、一方で消費者はスーパーアグリゲーターを介して自身の趣味に合うコンテンツを自由にバンドルすることで満足度を向上させる。つまり、配信の細分化と消費の統合が同時に進行することを予想する。


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独占と制約によってコンテンツの価値を向上させる時代は終わる


ここまで見てきた通り、スポーツメディア市場は複雑化している。スポーツ組織は、メディアコンテンツを単なる権利売買の対象としてだけでは無く、ファンそしてスポンサー企業とのエンゲージメントを確立するためのツールとして、どのように活用していくのかといった課題に向き合うタイミングが来ている。

日本国内ではまだ事例が少ないものの、海外のメディア市場に目を向けると、元MLB選手が立ち上げたプラットフォームにて選手が抱える課題や社会問題への取組みを選手自らが発信する、ファンが立ち上げたInstagramアカウントが数千万フォロワーを達成するなど、必ずしも統制された放送局・制作会社が作成する作品ではないコンテンツが注目を集めるケースが増えている。

従来のメディアコンテンツは独占と制約によってその価値を向上させることに成功してきたが、今後は計算された権利の開放と共創によって更なる価値を生み出す必要があるかもしれない。

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菅原政規◎PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー。2005年より現職。中央省庁等の公共機関に対するコンサルティングに携わり、調査、業務改善、情報システムに至る案件を多く手がける。近年は、スポーツ政策及びスポーツ関連企業・団体向けのコンサルティングを実施。PwCが毎年発行する「PwCスポーツ産業調査」の日本版監修責任者。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。

文=菅原政規、安西浩隆

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