火星や深海、北極圏、世界各国が始めた「希少な場所の争奪戦」

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ここ数年に聞いたなかで、最も意外だった話のひとつが、「アイルランドには、そこそこの規模の宇宙産業がある」という話だった。しかもこの発言をしたのは、とあるヨーロッパの大国の宇宙機関のトップだ。中東地域でバスに同乗していた時に聞かされたこともあって、この話はいっそう印象深いものになった。

実際、アイルランドの宇宙産業は成長しつつあり、同国で大きな規模を誇る航空機セクターと肩を並べるところへと近づきつつある。私はこの話をきっかけに、アイルランドが火星に人類を送り込む日が来るのではないかと考えるようになった。

米航空宇宙局(NASA)の火星探査機パーサヴィアランスから地球に送られてきた画像の数々は、過去の探査機がもたらした「センス・オブ・ワンダー」をさらにかきたてるものだ(これまでに、約10機の探査車、探査機が火星に着陸している)。そして、テクノロジーの力や、宇宙が切り開く可能性を改めて教えてくれるものでもある。

アイルランドは月面探査をめざすか


無人探査機のパーサヴィアランスが火星に向かう「旅」は、打ち上げから火星到着まで約7カ月を要し、総額で30億ドル近くの費用がかかった。これに対して、火星への有人飛行は、5000億ドルの費用と、7~9カ月(地球と火星の軌道の相対関係により異なる)の時間がかかるとみられる。

有人飛行が実行された場合、7カ月以上という長い期間を宇宙船に閉じ込められて過ごすことになるため、その精神的負担は、訓練を受けた宇宙飛行士にとっても耐えがたいものになると考えられていた。だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による自宅隔離を体験した今となっては、一般の私たちもみな、宇宙飛行士と同等の心の準備ができているのでは? と思う人もいるだろう。

火星への旅を決行する、勇気ある人物が出てくるまでに、今後もさらに多くの無人探査機が火星を訪れることになる。さらに、火星地表での植物栽培、火星での使用に適した酸素生成装置の開発といった、より興味深い実験も行われる予定だ。

火星地表に探査車を送り込む技術に関しては、NASAが最前線に立っているのは間違いない。だが、日本、インド、欧州連合(EU)をはじめとする複数の国や地域連合が、火星へのミッションを実施、あるいは計画している。

ロシアは、旧ソ連時代の1960年代に、世界初となる火星への有人飛行計画を策定した実績がある。また、2021年5月には中国が探査車を火星に着陸させる予定だ。また、アラブ首長国連邦(UAE)も、自国の火星探査機「ホープ」で、火星探査を行う国の仲間入りをした。また、スペースXをはじめとする複数の民間企業が、宇宙開発(と商業利用)の分野に進出し始めている。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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