火星や深海、北極圏、世界各国が始めた「希少な場所の争奪戦」

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「希少な場所の争奪戦」が、世界で始まった


このような宇宙開発競争は、私が「希少な場所の争奪戦」と呼ぶ、より大きなトレンドの一部なのかもしれない。この争奪戦はさまざまな形で展開されているが、例としては、地球上の「安全な地域」を求める動きや、宇宙開発およびそれがもたらす科学および鉱物採掘上のメリットを求める競争、深海の開発競争、さらにはこれと関連する北極圏の開発競争も挙げられる。

最初に挙げた、安全な地域を求める動きで思い出されるのは、架空のビリオネアがニュージーランドの山岳地帯に作り上げたという設定のシェルターだ(これは、ネットフリックスで公開されているドキュメンタリー調のコメディ「さらば! 2020年(Death to 2020)」に出てくるエピソードなので、ぜひチェックして欲しい。そういえば、ニュージーランドにも宇宙産業が存在する)。

特に興味深いのは北極圏だ。この地域の国際協力を統括するのは、北極評議会という国際組織で、カナダ、フィンランド、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、ロシア、米国、デンマークの8カ国が加盟している。北極圏は、戦略的に重要な場所に位置しているうえ、気候変動による環境破壊のバロメーターの役割を担うほか、温暖化による氷の融解でこの地域を航行する航路も生まれつつある。こういった点で関心が尽きない場所だ。

新しい「グレート・ゲーム」


北極圏は、地政学的に非常に重要な場所だ。2007年にはロシア軍の潜水艦が、海底の北極点に位置する場所に自国の国旗を設置した(興味深いことに2020年6月には、北極圏を専門分野とするロシアでもトップクラスの科学者が、中国のスパイとして活動した罪で起訴されたことがわかった)。また、デンマークは最近になって、自国の領土であるフェロー諸島とグリーンランドでの軍事プレゼンスを増強しようとしている。

北極圏という「希少な場所の争奪戦」には、戦略上の必要性という強い推進力がある。それは、19世紀から20世紀にかけて行われた「列強によるアフリカ分割」を、歴史家トマス・パケナムが論じた著書『The Scramble for Africa』(1991年出版)を思い出させるものだ(実は現在、アフリカの争奪戦も再燃している)。

その一方で、北極圏の争奪戦には、環境的な副作用が生じる恐れがあり、最終的には、非常に深刻な副作用を招きかねない(アフリカ分割も、副作用などという言葉で片づけられないほどの悪い影響を招いた)。

以上述べてきたような「争奪戦」は、現在の世界情勢を反映している。つまり、世界各国の協力関係に軋轢が増す一方で、経済活動のかなりの部分が、レアアースなど有限な天然資源に依存し、宇宙や北極圏といった一部の分野では「ゲームのルール」に関するオープンな議論の余地がない、という情勢だ。

先週の記事からの流れをくむなら、これは、19世紀に世界の大国が中央アジアの覇権をめぐって展開した「グレート・ゲーム(Great Games)」の現代版だ。当時のグレート・ゲームでは、英国とロシアのスパイが、イランのイスファハンやウズベキスタンのブハラで相まみえ、火花を散らしたものだった。

そして今、世界の大国は、先を争うように火星の周回軌道に探査機を送り込み、北極圏に近い水域に小型潜水艦を潜航させたかと思うと、アルゼンチンの草原地帯「パンパ」にある部外者立ち入り禁止の大牧場で面談を行なっている。

かつてのグレート・ゲームと同様に、この「ゲーム」は非常に魅力的だが、かなり高くつくものになりかねない可能性をはらんでいる。

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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