世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版


住:多層化できる住まいへ


2020年、「イエ」が、寝るだけの場所から、多くの機能を持つ場所になった。家で働くテレワークはもちろん、外食代わりの食の楽しみを「イエナカ」に求め、お出かけがわりに「おうちレジャー」、さらにはオンラインで子どもを塾に通わせる「おうち教育」……。家が、ただ休息するだけでない何重もの機能を持ち、楽しみ、気分を入れ替える場所となる「多層化」現象が起きたのだ。

この「おうちの可能性」に気付いた生活者は、これからの住まい選びや、住まい作りの前提として「どれだけ多層化できるか」を基準にしていくだろう。実際に、このコロナ禍を受けて都心物件だけでなく、ある程度の広さをもち、多層化の伸びしろを持つ都市郊外の物件が見直されているという。

これまでのように単純な利便性や不動産価値という外形的な物差しだけではなく、「どれだけ家を多様に深く使いこなせるか」ということが、「信じられる価値」として浮上してくるのである。

特にその多層性のなかでも、重要なのは「ひとり時間とみんな時間の両立」だ。

コロナ禍で家族で一緒に過ごす時間が増えたのはいいが、ストレスも増えたという人は多い。コロナ前の価値観で、帰宅後リラックスして過ごすことを前提に作られた家はあえて仕切らず開放的で、共働きの夫婦が同時にリモート会議するという環境に適さないことも多かったのだ。

そんな「ペイン」を解消するために、1メートル四方の仕切り板の中にデスクが収納されたミニプライベート空間を作れる家具も注目された。「ひとり時間」を確保し、みんな時間と両立できるこのような商品は、リモートワークが定着する中でますます求められるようになるだろう。

家族で長時間一緒に過ごしても、息が詰まっては仕方がなく、「みんな」でいる時間であっても、その中での気分の切り替えが問われはじめた。だからこそ、コロナ禍の昨年は、一緒にいる時間を多層、多様に切り替えるための商品もよく売れた。

家庭内で映画館のような大画面を手軽に楽しめるプロジェクターや、お家でレストランの味を簡単に味わえるミールキット、室内にテントを広げて楽しめるおうちキャンプ用品……。家庭内にいながら気分を切り替える、そのアイデアと手段が問われたのである。

たとえコロナ後の世界になっても、一度おうちエンタメの楽しさを発見した生活者にとっては「週末=おでかけ」だけが喜びではない。気分や都合にあわせて、「おうちでもお出かけ気分」を味わえるのだから。

このように見た目はただの家でも、その中身を多層化させることのできる商品は注目され続けるだろう。

文=山本泰士 編集=石井節子

PICK UP

あなたにおすすめ