タオバオの成長にはさまざまな要因がありますが、ユーザーの利便性を徹底的に追求し、ネットショッピング特有のストレスをなくしたことも大きな要因のひとつです。
たとえば、タオバオでは、10億もの商品が販売されていますが、ユーザーの検索・購買履歴や個人情報をもとに適切な商品がレコメンドされるので目当ての商品にすぐたどり着くことができます。
また、検索窓にカメラマークがあり、そこから写真を撮ると、同じ商品を探して表示してくれます。他のECサイトにも同様の機能はありますが、タオバオのアルゴリズムは秀逸で、ほぼ間違いがありません。
「返品リスク」や「交渉コスト」が激減
また、各商品のシェアもSNSだけでなく、画像やリンクを二次元バーコードに変換して他人に送ることができます。
たとえば、自身でリンクを発行し、他のユーザーに買ってもらうよう連絡。その人が決済すると、自分の希望した送り先に商品が届きます。相手がタオバオのアカウントを持っていなくても、WeChatペイ、アリペイが使えれば決済可能です。子どもが自分のほしい商品情報を親に送り、代わりに決済してもらうなどの使い方ができます。
各商品のページには、先述のチャットボタンがあり、電話やメールなどで問い合わせるまでもない、ちょっとした疑問を解決することができます。
販売者とのチャット履歴は保存されているため、質問を再確認することもでき、トラブルが起きたときも安心です。また、店側のオンライン状況や既読の有無などがわかる機能も搭載されており、利用者の利便性向上につながっています。
ECを通じて顧客とコミュニケーションがとれるチャット機能は、今後日本でも一般的になり、さまざまな使い方の工夫も生まれてくるはずです。
ECのチャットサービスは、ユーザーと店舗のやりとりの効率を大幅に向上させましたが、効果はそれだけではありません。
チャットサービスの普及で「返品リスク」や「交渉コスト」が劇的に下がった結果、中国の「国民総時間」と「国民生産性」の価値最大化に寄与したと言われています。GDPは、「国民総時間」×「国民生産性」ですので、この2つは中国で非常に重視されている概念です。
チャットサービスの普及は、生産性の向上が叫ばれている日本でも、今後重要になってくることでしょう。
王 沁(おうしん)◎中国陝西省漢中市出身。慶應義塾大学商学部卒。リクルートHD新規事業総括などを経て独立。現在はコンテンツ商社「JCCD.com」、AIプラットフォーム「AIBank.jp」などを運営。
『中国オンラインビジネスモデル図鑑』
王 沁/著