突然のパートナーの転勤。キャリアか家族か?ではない令和の働き方

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竹崎:私が霞が関にいたとき、所属先の省庁との調整がうまくいかず、希望していたキャリアパスが叶わなかったことを思い出しました。

辻:個人的な意見ですが、人事に対しては、抱え込まずに要望を言った方が良いと思っています。こちらの考えや意図を理解してもらえれば、要望が実現しなかったとしても、何かアクションをお願いしやすくなることもあるので。もちろん、人事からは組織にどういう貢献ができるのかを聞かれるので、そうしてキャッチボールする中で解決策が見えてくることもあると思います。

主体的にキャリアを構築する


竹崎:キャリアの構築で、日本とアメリカの違いを感じることはありますか。

瀬尾:まず、アメリカは日本に比べて人材の流動性がはるかに高いですね。なので、いい意味で、会社にコミットし続けなければいけないというプレッシャーはありません。それは、新卒で入社した外資系の日本法人でも同じでした。私は私費で海外留学をしていますが、そこで軽やかな意思決定ができたのは、選択肢に縛りがない外資系の風土が大きく影響していると思います。

竹崎:選択肢が狭まらないというのは、ポジティブな要素ですね。

瀬尾:それから、アメリカでは家庭の理由というカードはすごく強くて、転職する理由を聞かれたときに「家族の都合で」というと、2秒で話が終わるくらいスムーズに納得してもらえます。みんな理解してくれるし、誰もネガティブに受け止めません。

倉石:休みをとるのも長期休暇を取るのも、家庭はすごく尊重してくれますよね。

瀬尾:主体的に動きやすいところは良い面なのですが、一方、待っていても自動的に次のポジションが与えられないという緊張感はあります。次に何がしたいのか、そのためにはどのような努力をしなければいけないのかを考えなければいけません。これは、伝統的な日本組織とは違う点だと思います。

倉石:アメリカに来てからは、常に社内でポジションを探していかなければいけませんし、上司から毎回「君のキャリアプランは何?」と聞かれます。常に自分をブラッシュアップしないといけないというのは、それはそれですごく大変です。

竹崎:私も倉石さんと同じアマゾンという組織で働いていますが、入ってびっくりしたのは、上司が部下のキャリア育成にすごく時間をとるんです。しかも、キャリアチェンジにすごくサポーティブで。

例えば、私がアマゾンジャパンからアマゾンシアトルに転籍したいと話した時に、マネージャーはそれをサポートしなければいけないというルールがあります。抜けたら困るから止める、ということは一切ありません。個々人のキャリアプランを実現して成長を促していくためにマネージャーとして何ができるのか、という話を当たり前にしますね。しかも、業務の一環として業務時間内に行います。

辻:私の経験からすると、別の世界の話を聞いているような気がします。会社がそこまで個人のキャリアを応援するメリットって何なんでしょうか。もちろん、個人がレベルアップすれば会社にとっても良いことだと思いますが、組織外に出ていく可能性を含めてまでサポートする必要があるのかなと。

倉石:日本的な考え方ですが、組織にスキルとか知識とかが蓄積されないから大丈夫かなと思うことが私もあります。

竹崎:私の肌感覚になりますが、本人の意思は拒めないし、人材は循環するものだという考えが前提にあるような気がします。そこを無理やり押し込めて残したとしても、モチベーションは下がってしまうので。人がいなくなるのを前提に、そのなかでノウハウや経験が蓄積されて成長を続ける組織をいかにしてつくるか、に目を向けていると思います。

もちろん、副次的に、人材を育成する会社というイメージが定着したり、外に出た人があとで間接的に貢献してくれたりするだろうという打算もあると思うんですけど、1番の根っこは、人が動くことは止められない、だったらちゃんとサポートしてあげようよ、と。アマゾンではそういう風土を強く感じますね。
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文=伊藤みさき 構成=竹崎孝二

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