ソーシャルメディアは案の定、反発や文化論争が飛び交うおなじみの展開となったが、どんなものであっても学びの機会に変えることはできる。ジャガイモの繁殖の仕組みに目を向けてみると、それは男女の枠にとどめられないほど複雑であり、中性的なおもちゃを作ろうとするハズブロ社の取り組みはインクルーシブ(包摂的)だというだけではなく、実はジャガイモの科学に近いものであることが分かる。
ジャガイモの原産地は米大陸で、現在のペルーやボリビアに暮らしていた先住民が食用作物として栽培を始めた。常識ながら、私たちが食べている部分は塊茎、つまり根の一部であり、地上に出ている部分には茎や葉、花がある。ジャガイモは自家受粉型植物で、おしべの花粉が同じ個体のめしべにつくことで受粉する。花からは青いミニトマト似の果実がなるが、毒があるため食べられない。
この実の中には「真正種子」と呼ばれる種があり、新しい品種の開発に使われる。しかし、こうしてできた種は遺伝子が元の個体と大きく異なる傾向にあるため、種を使った栽培は農家にとっては好ましくない。
ただ、ジャガイモは塊茎(食用になる部分だ)を植えることで新たな個体が育つ無性生殖が可能で、世界各地では主にこの方法で栽培が行われている。健康な塊茎は「種芋」として農家に販売され、親となるジャガイモと全く同じ遺伝子を持つ新たな個体の栽培に使われる。映画『オデッセイ』で、火星に取り残されたマット・デイモンが生きながらえたのも、ジャガイモのこの特性のおかげだった。
ここで、ミスター・ポテトヘッドの論争に話を戻そう。科学の視点から言えば、ジャガイモであれ人間であれ、性別は男女の二元論に集約できるシンプルな問題ではない。特にジャガイモに関して言えば、雄でも雌でもあると同時に、無性でもある。
よって、ハズブロの開発コンセプトは、科学的な意味では常に正しかったことになる。ポテトヘッドは本物のジャガイモと同じく、体の一部が交換できるのだ。