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empheal(エンフィール)代表取締役社長 西口孝広      右:ユニバーサル ミュージック代表取締役社⻑兼CEO 藤倉 尚

オンとオフの区別はなく、深夜残業も当たり前。そんな音楽業界の古いイメージも覆りつつある。コロナ禍の音楽シーンの変化にもアジャイルに対応した働き方変革を成功させたユニバーサル ミュージックでは、成長戦略のひとつに「健康経営」が取り入れられているという。

同社代表取締役社⻑兼CEOの藤倉 尚と、企業の健康経営の導入から実践、成功までをサポートするempheal(エンフィール)代表取締役社長の西口孝広が、社員の心と体の健康を基盤にした経営のあり方について語り合った。

激務による不健康と寝不足を自慢する時代の終焉


西口孝広(以下、西口) 音楽業界といえば、深夜に及ぶ業務が当たり前というイメージがあります。そもそもどんな業界でも、現在の経営者層が若いころは、不健康こそが頑張っている証拠であり、バロメーターという風潮も少なくなかった。かくいう私もかつてNTTドコモの経営企画部在籍時は、深夜遅くに帰宅しても明朝は通常通りに出社する、そんなサイクルの生活を続けていた時期もあります。

藤倉 尚(以下、藤倉) 私も同じです。不健康がかっこいいという時代で、寝ていないことは自慢のタネでしたね。深夜にわたる業務や宴席が続くことが常態化していて、早朝の会議にはギリギリに起きて、寝ぼけ眼で参加していました。

西口 心身ともに健康でなければ最高のパフォーマンスを叩き出すことは不可能。考えてみれば当たり前の図式なのですが、日本の企業経営者層の多くは自身の経験と慣習から、そこに気づけないでいることがあります。

藤倉 私もパフォーマンスという点で、周囲から指摘されたのが健康を意識するきっかけでした。10年ほど前、少女時代やKARAなどが所属しており、邦楽セクションの代表として韓国への出張なども多く、睡眠時間も不足しがちで不健康な日々を過ごしていました。

企業の業績は伸びていました。しかし社員や付き合いの深いアーティストに「最近パフォーマンスが落ちているのでは?」と指摘されるようになったのです。体調が奮わなければ仕事のクオリティは上がりません。不健康なサークル内では仕事の成果も上がるはずがありません。仮に成果が出ても再現性に乏しく、成果が続かなければ、業績自体に響いてしまう。これは何とかしなければならないと、そこでやっとスイッチが入ったのです。

西口 最大のパフォーマンスを発揮するための手段として健康経営が、ここまで日本で注目されるようになったのは最近のことですが、それよりずっと前に藤倉さんは実体験としてその必要性を感じたのですね。

藤倉 弊社のビジネス環境上、気づきやすかったということもあると思います。新型コロナウィルスによるパンデミック以前より、各国オフィスのCEOとのオンラインミーティングも日常的にありました。彼らは朝が早くても深夜でも、非常に高いテンションとパフォーマンスで圧倒してくるわけです。朝からサーフィンやランニングなどをして、食事や睡眠を管理しながら最高のコンディションで参加してくるのですから、寝ぼけ眼ではとても太刀打ちができません。

2014年の社長就任を契機に、最高の音楽を届け続けるために、健康の大切さを社員にも伝えるようにしました。今でもミーティングの最後には、必ずといって「心と体を健康に!」と付け加えています。

西口 そうした具体的な経験から地に足がついた健康経営が始まり、ユニバーサル ミュージックの業績にも反映していくのですね。



社屋の引越しとともに、“心の引越し”も行うと宣言


西口 “体”だけでなく、社員の“心”の健康にフォーカスしている点が興味深いです。

藤倉 18年に社屋の引越しがあったのですが、そのときに私は従来の常識を刷新する“心の引越し”も行うと宣言しました。音楽産業自体も、近年激変しています。サブスクリプションの普及により、リリースから時間が経過してヒット曲に育つケースもあり、ビジネス構造が従来のCDの発売日を軸としたビジネスから変化しつつあります。

そこで音楽会社のエンジンとも言うべきアーティストの発掘を行うA&Rという職種を含め、当時、全社員の60%にあたる300名超の契約社員を正社員へ切り替えました。これ単年で成果を上げるのが難しくなった現状への対応という意味合いもありますが、雇用に不安を抱かず、社員に新しいチャレンジをしてもらうためでもありました。さらにフルフレックス制度を導入、出勤義務をなくすことでそれぞれの業務に合わせた健康的で多様な働き方ができるような環境を整えました。

西口 社員のパフォーマンスを引き上げるための施策ですね。心身や時間に余裕ができればよりよい成果を引き出せますから。

藤倉 私たちが扱っている商品は、結局は人です。アーティストはもちろん、社員も同様です。コロナ禍で出社率20%に抑えているのも、かかわるすべての人の健康が基本だと思っているからです。

西口 素晴らしいですね。私たちも健康経営の根幹にはそうした“社員への優しい配慮”が必要だと日々痛感しています。“人は使い捨て”という考えが見え隠れする企業はいまだに少なくないですが、その姿勢は人材獲得にも不利になると認識したほうがいいと思います。そうした優しさに対して、人は敏感です。就活生でさえ、ピンと来てしまうものなのです。

藤倉 確かにリクルート面でも高評価を得るようになり、優秀な人材も多数集まるようになりました。多様なバックグラウンドをもつ社員が増え、良い影響をもたらしていると感じます。

コロナ禍で、ライブもスタジオ演奏も今は難しいタイミングです。ただしそうした状況下でも、サブスクリプションやストリーミングサービスは伸びている。テクノロジーを活用すれば、オンラインレコーディングも可能ですし、悲観する必要はないのです。可能性はたくさんあります。

西口 マイナスな環境でもポジティブな心をもつことができるのは、きっと藤倉さんが心身ともに健康だからだと思います。それは社員も同じ。健康だからこそ、チャンスに邁進できるのでしょう。

藤倉 確かに考えもポジティブになった気がしますね。多様性を受け入れる心の余裕もできたと思います。ただ、そもそも音楽自体が人種、国籍、性別など一切関係のないダイバーシティそのものなんですよね。

私たちの使命は、コロナ禍であっても最高の作品を届け続けることです。そのためにもあらゆるステークホルダーとの関係を止めてはならない。会計や支払いなども止まれば、すべてが止まってしまいますから。なるべく動きを止めない、それでいて健康リスクを避ける。そのふたつを同時進行で行っているところです。



健康経営で一人ひとりのパフォーマンスを最大化すると、企業の業績は好転する


藤倉 健康経営のプロフェッショナルである西口さんに聞きたいのですが、企業が健康経営をさらに推し進めるために何ができるのでしょうか。

西口 emphealは日頃、健康経営の重要性とメリットを経営者層に伝える活動しています。これまで見てきたなかでも、藤倉さんの考え方と取り組みの姿勢、社員への伝え方と巻き込み方は、本当に理想的だと思います。世の中の経営者層の多くは、頭では思っていても実践できているわけではありません。心と体の健康がどのように企業の成長につながるか、それを体現しているユニバーサル ミュージックの好例は、健康経営の導入を考えている経営者層にとって非常に有益な情報だと思います。

そのうえで何ができるか。私たちが思うのは、答えはいつも社員のなかにあるということです。例えば、アンケートなどを通して部署ごとで違う具体的な健康問題が見えてくれば、局所的な改善策を講じることも可能となります。

また、私たちの好評なサービスのひとつに、国内の大半の医師を登録者にもつエムスリーと協業することで最適医療の選択をサポートする「M3 Patient Support Program」があります。24時間365日のオンライン医療相談サービスや、マルチオピニオン支援などを活用すれば、健康問題解決のために医学的見地からの判断を得ることや、最適な専門医にアクセスすることも可能となります。社員と医療とのマッチングまでを包括する、健康経営の新しいかたちです。

藤倉 それは興味深いですね。確かに医療にまでアプローチできるのはいいですね。病気による長期休養や退職は、社員はもちろん、企業にとっても大きな痛手になりますから。

西口 社員に何か健康上の問題が起きたときに、最適の医療を受けることができる体制があれば、社員はより安心して業務に邁進できますし、企業にとってはこの体制自体がリスクマネジメントとして機能します。

遠くない未来には、こうした健康経営が、日本企業の「あたりまえ」の成長戦略になります。また、それを実現することがemphealの使命だと信じています。



藤倉 尚(ふじくら・なおし)◎1967年、東京生まれ。メルシャンを経て前身のポリドール株式会社に入社。2007年に邦楽レーベル「ユニバーサル シグマ」のマネージング・ディレクターに就任。12年に副社長として邦楽を総括後、14年よりユニバーサル ミュージック合同会社 社⻑兼最高経営責任者(CEO)に就任。

西口孝広(にしぐち・たかひろ)◎1976年、大阪府生まれ。99年、NTTドコモに入社し、通信・経営企画を経験した後、NTTドコモ新規事業の一環として医療・ヘルスケア分野の事業開発を担当。2019年、emphealの設立に携わり、現在に至る。

▶ empheal

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Promoted by empheal │ Text by Ryoichi Shimizu │ photographs by Takao Ota │ edit by Yasumasa Akashi

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