炭素税で民間にイノベーションを促すインセンティブを

菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言した。達成手法については、「次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーション」が鍵としたものの、具体的に、どのようにして革新的なイノベーションを促していくかについては、述べなかった。

地球温暖化を止めるためには、世界全体の温室効果ガスの排出をゼロにすべきだ、という目標には、広範な合意がある(地球温暖化と温室効果ガス排出との間に因果関係はない、と信じるごく一部の人はいる)。

温室効果ガスの抑制は、地球規模の「公共財」の問題である。そのためには、国際的協調が欠かせない。しかし、温室効果ガス排出削減に、公平さを期す方程式があるわけではない。これまでの国際的とりきめである京都議定書とパリ協定では、国ごとに排出削減目標を定め、各国がそれをどのように達成するかは、それぞれの国に任されてきた。

京都議定書は、1997年に採択され、05年に発効した。そこで、日本は90年(基準年)に比して、08-12年の間にマイナス6%を達成することを約束していた。しかし、日本の温室効果ガスの排出量は、基準年である90年の12億7550万トンを下回ったのは、09年(12億5000万トン)のみで、そこから急上昇して13年には、14億1010万トン(90年比10.5%増)にまで増加した。

この急増には、11年に起きた福島第一原子力発電所の事故による全国の原発の全面停止と、その後の安全規制強化が影響している。新しい安全基準をクリアして再開する原発が少数にとどまっている。11年の事故前には、原子力発電は、日本の総発電量の30%のシェアを占めていた。ところが、18年でも6%までしか回復していない。これに代わって、石炭火力発電が30%のシェアを占めるようになり、LNG火力発電のシェアも40%となっている。太陽光など再生可能エネルギー比率は18%にとどまっている。

京都議定書では、最大の温室効果ガス排出国であるアメリカが脱退し、中国も含めて途上国に削減義務が課されなかったため、地球温暖化防止の観点から実効性が疑問視されるようになった。そこで途上国も含む枠組みとして、15年に「パリ協定」が合意された。そこでは、アメリカも中国など途上国も含む、まさに地球規模の協定となった(アメリカはトランプ前大統領がパリ協定からの脱退を決めたが、バイデン大統領のもとで復帰する)。

パリ協定では、日本は13年比較で、30年までに26%の削減を宣言している。日本の温室効果ガス排出量は、13年から毎年低下を続け、19年には、13年比で14%減の12億1300万トンとなった。このままの削減幅を続ければ、30年までに目標の26%減を達成することは不可能ではない。しかし、50年までにゼロにする、というのは、どうだろう。仮に、13年から19年までの6年間の平均削減量を今後も毎年達成していっても、50年には1.9億トンの排出が残る。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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