炭素税で民間にイノベーションを促すインセンティブを


排出量削減のためには、常識的に考えて、太陽光・風力・地熱発電など再生可能エネルギーによる発電の拡大、原子力発電の維持・拡大、電気自動車(EV)・燃料電池(水素)自動車の普及などが重要となる。一方鉄鋼業などの産業界からは、カーボン・キャプチャー(発電所や鉄鋼業などから排出の二酸化炭素を回収・地中に埋める技術)への期待もある。

13年から19年の6年間の大きな削減には、原子力発電の再開、再生エネルギーの拡大がある。しかし、この傾向の継続には困難がある。原子力発電所の再開ペースは加速しているとはいえず、既存の原子力発電所には40年(延長しても60年)の寿命があるため、いずれ廃炉が増える。新規の原子力発電所が建設できなければ原子力による貢献は期待できない。

菅首相の語るとおり「革新的イノベーション」が必要だが、単に、政府が科学技術予算をつければ、イノベーションがおきるのだろうか。経済学者は、温室効果ガス排出の多いエネルギー源には、炭素税を課すことで、民間にインセンティブをつけることが重要だと考える。炭素税こそイノベーションを促すインセンティブとなる。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別 教授。一橋大学経済学部卒業、 ハーバード大学経済学博士(Ph. D取得)。1991年一橋大学教授、 2002~14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62 回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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