4年前、45歳の女性が交通事故で3日間入院し、入院時に保険証を提示したにもかかわらず、病院はその適用を拒否。本来なら保険規約によって自己負担が0になるはずだったものが、いきなり130万円分の担保をつけられ、係争になったケースがあった。
これが、最近ようやく和解となり、ニューヨーク・タイムズで取り上げられ話題となっている。
保険外診療にして5倍の金額を請求
バイデン大統領は、オバマ政権の副大統領時代に、いわゆるオバマケア(国民皆保険)を誕生させたといわれる人物だ。それだけに、新政権では、医療保険改革がさらに進められるとみられている。
とはいえ、この改革はあくまで「皆保険」を目指すものであり、すでに保険に入っている人が、今回の45歳の女性のケースのように病院の商業主義の犠牲になるという事態までは想定されていない。保険によって適用したり拒絶したりと、日本では考えられないアメリカの病院事務の複雑性と不正確性は、今後も問題となりそうだ。
ニューヨーク・タイムズの記事によれば、彼女は「メディケイド」という保険に加入していて、保険証を何度も提示したにもかかわらず、病院側はその保険を受け付けず、通常の治療費130万円を直接本人に請求し、直ちに女性の財産に担保をつけたとされている。
メディケイドとは、国や州政府が提供している医療保険で、日本の国民健康保険に近い。低所得者や障害者へ向けたもの(たいてい治療費の自己負担はゼロ)であり、アメリカの23%の人口をカバーする巨大保険だ。
しかし、行政が提供している保険だけに、同じ医療行為をしてもレセプト(医療保険点数)が強制的に減額されることがとても多く、「メディケイドの被保険者なら受け入れない」という私立病院も少なくない。
今回の女性の例では、メディケイドの保険を受け入れれば2500ドルしか取れない治療費を、メディケイドの保険外診療ということにすれば、その5倍の金額を請求できるという仕組みになっており、こういう無理スジをやる病院は少なくない。
通常であれば、支払い方法(自分の保険を受け入れてくれるかどうか)について具体的な会話があってから治療に入るのがアメリカの病院における受診の流れだが、この女性の場合は、交通事故によって救急車で搬送され救急病棟に担ぎ込まれたため、そういうプロセスがなかったらしい。
低所得者だからこそメディケイドの保険に入っているのに、自己負担0のところを130万円も請求されては、もちろん納得するわけにはいかないだろう。それで訴訟になったわけだが、和解まで4年もかかっており、事の深刻さを指し示している。
裁判では、他の多くの事例も示されたようだ。それによれば、保険を適用せず直接患者に請求をし、中間あたりの金額で和解するというやり方が全米の大病院で一般的になりつつあると指摘されている。
特にメディケイドでカバーされている低所得者は、なかなか弁護士も雇うことができないため、最初請求された金額より減じられて和解案を出されたら、受け入れてしまうことも多い。このやり方だけで、1つの病院で年間10億円も売り上げを増やしているケースが裁判でも明らかにされていた。
交通事故でフロントガラスに頭をぶつけて朦朧とした意識のなかで署名させられた書類により、本来自己負担ゼロのところを340万円の請求をされたケースもあったという。