3日間の入院で130万円を請求 アメリカ病院経営の複雑な事情

バイデン新政権下でさらに進むとみられる医療保険改革。かつて自身が立役者となった「オバマケア」も含め、病院事務に残る課題は多い。Joe Raedle/GettyImages


オバマケアにも問題点が


アメリカの病院経営は、基本的に外来患者で儲け、入院患者で生じる赤字分をカバーし、州政府や連邦政府からの補助金で何とか生き延びるというのが、大方だという。だから、本来、高額医療や高い設備投資に回すお金がない。質の高いスタッフを雇うお金もない。

そういう事情から、看護師の対応でインターネットにおいて高評価を受けたり、さまざまな施設や医療器具のアップグレードで高評価を得たりする。そのためには、企業経営的手法を持ち込まないと生き残っていけない実態になっている。

そして、企業経営的手法のなかには、合法でさえあれば、このような形の非常識的なアプローチで保険治療を拒否し、救急患者を中心に保険外診療をして高額請求をし、さっさと担保をつけて和解金を高く狙うというやり方が行われているのが現状だ。

アメリカの医療改革は半世紀にわたって行われてきたが、この病院経営については、有効な解決策は見えていない。選挙公約の目玉にはなるので、どの候補者もそこには触れるが、膨張する医療費の総額を抑えない限り、保険改革は実現できない。

オバマケアも、導入した途端に、一般人の保険料が倍以上に膨れ上がるという事態を招き、今日高い評価を得ているとは言えない。

(メディケイドの資格が取れなかった)低所得者が、オバマケアの保険に無償で入り、そこで膨れ上がった医療費をカバーするために中産階級の保険料が高騰し、今度は中産階級が保険を払えなくなり、罰金を払うことを覚悟で脱退するという事態が目立った。

2016年の選挙で、「わたしが大統領になったらオバマケアなんかすぐにやめる」と宣言したトランプが、大統領に当選した要因の1つでもあった。

筆者のように、アメリカで長年生活していると、時々病院にお世話になることがある。しかし、10回のうち8回は、請求書のなかにミスや過剰請求や、また請求が来るまでに11カ月もかかるなどの事務的ミスを経験していて、いつも落胆する。周囲の人たちと話しても基本的に状況は同じようだ。

「医療の質の向上」にばかり世間の目は向くが、医療行為が終了した後の事務の改善はなかなか進まない。科学の最先端を尽くした最新鋭の高度な医療技術や、新薬の多くはアメリカから誕生するけれど、アメリカで暮らす日本人は、医者にかかるなら日本がいいと口をそろえて言うのだ。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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