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地方発イノベーションの秘訣


こうして順調に準備を進めていたのだが、思わぬことがネックになった。XR CLOUDは、ダウンロードしたアプリを起動して、ネットに接続すると仮想空間につながる仕組みだが、参加者の大半を占めるのは、大手の金融機関やメーカーの幹部たちだ。私たちも万全を期してわかりやすい操作マニュアルを作成していたが、直前になって問い合わせが相次いだ。

その多くが、社長や役員の秘書たちからの「社内のセキュリティ規定で許可されていないアプリの起動や通信は禁止されている。どうすればよいか」というものだった。

セキュリティ規定の話になってしまうと、情報担当部署に話をして制限を解除するしかない。そこであわてて、このアプリの安全性を説明する資料を作成した。しかし、時間切れとなり、役員など約10数人全員の参加を見送ると直前になって伝えてきた大企業もあった。

仮想空間での開催を86%が評価


そんななかで開催された「バーチャル神戸のつどい」には、当日、400人以上が参加してくれて、大盛況となった。毎年のリアル開催では、約2000人に案内して600人程度が来場していたが、オンラインだからということで出席率が大きく下がることはなかった。

開催後に募ったアンケートでは、仮想空間での開催を「評価する」と答えたのは、86%に達していた。参加者の55%が50歳代以上というのも例年と同じ傾向だ。仮想空間が「使いにくかった」と答えた人も47%だったので、技術的には今後も改善が必要だろう。

オンラインイベントらしい当日起きたドタバタ劇も紹介したい。開始から30分経ってセミナーの司会をしようとすると、突然、私以外のアバターが画面から消えた。他の参加者も同様だった。

すると、システムを監視していた本城氏から「サーバーのCPU負荷が100%に張り付いている」と知らせがきた。セミナースペースに300体のアバターが密集し、相互通信したのが原因だった。

技術スタッフが手を尽くしたが回復しない。これではセミナーを始められないので、本城氏は「サーバーを増設する。メイン会場以外の参加者をいったん強制ログアウトさせる」と提案したが、野田がそれを断った。

始まっていた市長面談を強制切断はできない。その裏で、とっさに石川は、運営スタッフにログアウトするよう電話などで呼びかけた。60人ほどのスタッフが退出すると、サーバーへの負荷が下がった。石川は、「今回の仮想空間には緊急の館内放送がない。分散するようにアナウンスできればよかった」と話す。実はこの機能は翌月にXR CLOUDに追加される予定だった。

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市役所オフィスから仮想会場を確認する職員たち

私とともに司会を務めた、ウィズグループ代表の奥田浩美氏は「崖の上から飛び降りながら飛行機をつくっているような現場だ」と、この会を締めくくった。この言葉は、世界最大級のビジネスSNSであるリンクドインの創業者、リード・ホフマンが残したスタートアップを評した名言になぞらえたものだ。

国内のITカンファレンスに20年以上も携わって、たくさんのスタートアップをこの世に送り出してきた彼女が、お役所仕事らしからぬ、石川と野田の挑戦を目の当たりにして、思わず口ずさんだひと言だった。

今回のトラブルを起こしたサーバー負荷の問題も改修したXR CLOUDには、EC機能も備わっている。「次は、神戸の旬な農産品やお酒、スイーツを購入できるようにしては」と、今回の「バーチャル神戸のつどいの立役者」と呼ばれるようになった石川と野田の2人は、次回開催に向けてもう走り出していた。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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