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慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授 宮田裕章

アストラゼネカ、スウェーデン大使館共催シンポジウム「Accelerate Healthcare Innovation Ecosystems through COVID-19」から学ぶ、患者起点のヘルスケアイノベーションエコシステムが世界を変える(後編)

2020年11月11日、アストラゼネカとスウェーデン大使館は、15カ国で展開している、「ヘルスケアイノベーションエコシステム」のグローバルハブに日本の「i2.JP」が加わったことを記念したシンポジウム、「ヘルスケアイノベーションエコシステムの新たな可能性(Accelerate Healthcare Innovation Ecosystems through COVID-19)」を開催した。前編では、自国、自社の利益を優先するのではなく、他国のルール、文化に配慮しながらその国のステークホルダーとの共創を成功させているスウェーデンのヘルスケアイノベーションエコシステム、「BioVentureHub」に着目し、患者起点のグローバルコラボレーションの重要性にフォーカスを当てた。後編では、新たに発足した「i2.JP」に参画することで、日本企業がどのように世界に存在感を示していくべきか、慶應大学医学部教授であり、データサイエンスのスペシャリストでもある宮田裕章が明解にロードマップを示してくれた。

イノベーションは国際連携から生まれる


「超高齢化、少子化社会に突入する日本は、今後、市場規模が縮小するため、国内需要を頼りに成長していくのは困難です。では、データ&テクノロジー、デジタル・トランスフォーメーション(以下DX)によって業種間のボーダレス化が進む海外マーケットに企業が単独で進出できるかといえば、それも難しいと言わざるを得ません。変革期には、シェアードバリューを意識したグローバルコラボレーションが非常に重要なキーワードになります。ヘルスケア領域においても例外ではありません。こうした時期にアストラゼネカが主導するヘルスケアイノベーションエコシステム『i2.JP』が日本に誕生したのは、非常に心強い限りです。米国、欧州、南米、アジアと連携しながら創出してきた新たな価値、そのノウハウを共有することによって、日本のヘルスケア領域の秘められたポテンシャルを引き出すことができるからです」

データサイエンティストとして世界を舞台に活躍する宮田裕章は、欧州型の国境を越えたコ・クリエイションは日本と相性がいいと説く。

アストラゼネカが世界展開しているヘルスケアイノベーションエコシステムの最大の特徴は、現地の人々の健康体験の向上を目的に、国内企業と国外企業が手と手を取り合って共に発展していくマルチステークホルダー・プロセスを構築している点にある。『4D+E:(医薬品(Drug)、医療機器(Device)、診断技術(Diagnosis)、デジタル(Digital )、エクスペリエンスデザイン(Experience design)』の連携によって患者中心の医療を実現するというコンセプトから、それぞれの国のアーキテクチャに合わせたかたちで産官学のコラボレーションを推進している。

「『i2.JP』に参加する企業や自治体、研究機関は、アストラゼネカやそのパートナーの支援を受けながら、さまざまな国に進出できるという大きなメリットもあります」


慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授

本稿の前編では、スウェーデンが国内外の大企業、アカデミア、起業家、パブリックセクター、スタートアップを招聘するために近未来型のスマートシティ、「GoCo Health Innovation City」のインフラを整えていることを紹介した。革新的な技術をもつ日本の企業、研究機関は大いに歓迎されるだろう。

もう一カ国、アストラゼネカのグローバルイノベーションハブの例を挙げよう。

2019年に中国の無錫市(Wuxi)に創設した、グローバルハブ、「I•Campus(インターナショナル・ライフサイエンスイノベーションキャンパス)」では、海外企業と中国企業が連携し、とくにIoT、5G、AIなど次世代テクノロジーを活用し、高度な医療が受けられない地域の患者をサポートしている。新型コロナウイルスのパンデミックでは、オンラインで診断、ドラッグレビューを行い、処方箋を出すインターネットホスピタルがさまざまな疾患領域で機能した。


「I2.JP」に参加する企業は、「I•Campus」から先進の技術を学ぶこともできる。

つまり、スウェーデンや中国など、グローバルオープンコラボレーションを進める国の力を借りながら、「I2.JP」は日本独自のエコシステムを構築していくことになるだろう。

「アストラゼネカは、多国間での連携によって患者の人生を変えるイノベーションを次々と起こしてきました。デジタル変革が起きている現在、人々のニーズは多様化しています。データの時代では、日本企業は、自社のサービスに固執するのではなく、自国、他国の生活者が抱える課題解決を第一のプライオリティとして新たなサービスを創出する必要があります。そのためには、ひとつの企業でプロジェクトを完結するのではなく、先進技術でバリューを出せるスタートアップや現地企業を含めたステークホルダーとのコ・クリエイションによって一人ひとりの顧客に寄り添えるKPIを設定する必要があるのです」

アストラゼネカのグローバルハブにアクセスし、世界と共創できることが、「i2.JP」に参画する最大の醍醐味と言えよう。

日本企業にも必要な社内ベンチャー


「スウェーデンのように北欧のステークホルダーはスタートアップこそが未来をつくり変えるという発想で起業家を育てています。米中のテックジャイアントなどは社内ベンチャーを次々と立ち上げ、本社のエース級をデジタル通貨やモビリティなどの会社に送り込んでいます。海外では、離れが母屋を取るくらいの緊張感をもって、DXによる業界構造の変化に対応しようとしています。『i2.JP』の発足によって、日本でも世界にインパクトを起こすスタートアップが続々と生まれることを私は期待しています。しかし、そのためにはいくつかの条件があります。まず、ステークホルダーはチャレンジャーの失敗に寛容であり、再チャンスを与えるための仕組みをつくらなければならないでしょう。大企業は新たな事業を構築するときにただ子会社をつくるのではなく、テックジャイアントのように本業とはまったく違う顔をもった、しがらみのないスタートアップを立ち上げる戦略も考えるべきです。例えば、中国IT大手3社BAT(Baidu/百度、Alibaba/阿里巴巴集団、Tencent/騰訊)のように事業が成功した場合に大きなインセンティブを与える制度があれば、社員のモチベーションは格段に上がるでしょう」

ヘルスケア領域にはさまざまな課題があるが、そのなかでも「i2.JP」には担うべき大きな使命があると宮田は言う。その主役はイノベーション企業が務めることになるだろう。だからこそ、スタートアップにチャンスを与える仕組みが必要なのだ。



超高齢化への挑戦


「21世紀を生きる人類は、先進国を先頭に超高齢化、少子化という難題と向き合わなければなりません。医療を必要とする人が増え、支える人が少なくなるということは、多くの国で現状の社会保障制度を維持するのが困難となり、世界経済は深刻な状況に陥るということを意味します。先進国の中でも日本は最初に危機に直面します。日本の状況というのは、世界の未来でもあり、どのような対策を打つか、各国が注視しています」

日本が高齢化対策に成功すれば、それがロールモデルとなって世界に波及する。

「病気の高齢者を支えることはもちろん大切ですが、健康寿命を伸ばすという視点から病気の予防に力を注ぐことも同じように重要です。例えば、認知症薬にはシーズがなく、中等症以上のケースでは今後15年は、特効薬は生まれないと言われています。しかし、軽度認知障害やフレイルの時期であれば、病気の進行を抑えることがいまはできるのです。あるいは、睡眠薬を処方する場合、ウェアラブルデバイスがあれば患者の眠りの質を可視化することができるようになっています。それを踏まえたうえで処方の量をコントロールし、患者自身の力で回復してもらうサポートもこれからは可能になります。高齢者が陥りがちな薬のオーバードースを防ぐような医療サービスも必要です」

健康寿命が延びれば、シニア世代も積極的に社会活動に参加できるようになる。一般的に65歳以上を高齢者と呼ぶが、その定義も変わるはずだ。高齢者が社会で活躍することによって、日本全体の生産性が上がれば、若年層の負担を減らす新たな社会保障制度を再構築することも可能となるだろう。

「日本では今年から、検診と投薬のデータがマイナンバーポータルでつながります。そうなれば、健康な状態の高齢者のデータが蓄積されます。病気になった人のデータは世界中にたくさんありますが、健康な状態の高齢者の詳細なデータをもつ国はあまりありません。そこに多くのイノベーションの種が埋まっている可能性がある。健康を起点に高齢者が前向きな生き方を選択できる社会をつくるためにもイノベーションが必要なのです。先進国にとっては、10年後、20年後には高齢化が自分事になります。日本のヘルスケア業界への投資が加速する可能性は決して小さくありません。イノベーションをつかむためにも、『i2.JP』に多くのスタートアップが参加することを期待しています」

日本はデジタル化が遅れているといわれていることが懸念される。だが、宮田はそのことをネガティブには捉えていない。

「日本には高度な医療技術があり、薬が創れる数少ない国のひとつです。日本のクラフツマンシップは、人々の多様なインサイトに寄り添うことで磨かれてきました。それは本来、DXにおける最大の強みになります。一人ひとりに寄り添えるデジタルは日本の強みをさらに引き上げるということです。ヘルスケアを糸口にデジタルが温かい社会をつくる手段であるということを『12.JP』が証明してくれるでしょう」




みやた・ひろあき◎2003年3月東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程、同分野保健学博士(論文)修了。早稲田大学人間科学学術院助手、東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座助教を経て、2009年4月より東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座准教授。2014年4月より同教授(2015年5月より非常勤)、2015年5月より慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。



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Promoted by アストラゼネカ 文=篠原 洋 写真=三木匡宏 編集=高城昭夫

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