波が似合う爽やかな音楽? 米音楽シーンで注目の「ヨットロック」とは

ヨットロックって?(Photo by Unaplash)


この曲でバックを務めたデヴィッド・ペイチとジェフ・ポーカロは売れっ子セッション・ミュージシャンとなり、自らもロックバンド、TOTO(トト)を結成して活動を行うようになっていく。

ヨットロックは、泥臭いカントリーロックやサザンロックに飽きた大人のロックリスナーに受け入れられ、70年代後半から80年代前半にかけて全盛期を迎えた。しかし80年代にドラムマシーンやシンセサイザーが流行すると衰退が始まり、LAメタルの流行によって完全に終焉を迎えてしまう。90年代以降は、「ダサさの極みのような音楽」として受けとられるようになった。

2005年に大ヒットしたコメディ映画『40歳の童貞男』を観るとこうした状況がわかる。主人公のアンディは郊外の家電量販店に勤めているのだが、テレビ売り場では、ヨットロックの代表的アーティスト、マイケル・マクドナルドのライブDVDがエンドレス再生されている。こうした設定は、「オシャレじゃない」「センスが悪い」ひいては「アンディが童貞である」ことにまで関連づけられていたのだ。


80年代ロックシーンを代表するバンド、TOTOの『ロザーナ』

ヨットロックと日本でいうAORとの最大の違いはこの点にある。AORは、中高年リスナーにとっては輝かしい青春時代のBGMであり、永遠にクールな音楽である。それに対してヨットロックは若いリスナーによる、一度は絶滅したダサい音楽から敢えて格好良さを見出す行為を伴ったものなのだ。

コメディ界から広がったクールなヨットロック像


こうした価値観の転倒はコメディの得意とするものだが、ヨットロックという概念もコメディ界から生み出されたものだった。震源地は後年テレビコメディ『コミ・カレ!』のクリエイターとして名を轟かすダン・ハーモンが運営していたお笑い専門ネットテレビ局「チャンネル101」。月に一度ロサンゼルスの劇場で、短編コメディの上映会を行い、観客の投票でトップ5以内に入れば次回分の製作費を支払うというスタイルで様々な才能を世に送り出してきたこのチャンネルで、2005年に『ヨット・ロック』と題された短編コメディ番組がスタートしたのだ。

ディープな音楽オタクのJ.D.ライズナー、ハンター・D・ステアー、デヴィッド・B・ライオンズの三者がクリエイターを務めたこの番組は、ヨットロックの名曲の誕生秘話を再現ドラマ方式(但し内容は嘘)で語るユニークなものだった。彼らはアダルト・コンテンポラリーやソフトロックのなかから、R&Bやジャズ・フュージョンの要素を取り入れた洗練されたロックを、ヨットが似合う爽やかな音楽であることから、またロック本来の反骨精神を欠いていることを半ば揶揄して「ヨットロック」と定義づけた。
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文=長谷川町蔵

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