見たいニュースしか見えなくなる「フィルターバブル」、どう破る?
Q フィルターバブルのなかにいるユーザーはそのバブルの危険性に気づいていない上、サービスとして自分の見たいものが見られることを欲しています。そういった場合、どういったアプローチをするのがよいのでしょうか。
僕の大学時代の友達に保守派の友達がいて、「なんで保守派なんだ」と聞いたら、彼は「保守派は楽しいんだよ」と答えました。なるほど、そうなのかと膝を打ったんです。
たぶん、自分が楽しい空間を作っていく性質が人間の本質にあって、それは保守だろうがリベラルだろうがどちらの方にもある。
なぜみんなこんなに政治的なことに情熱を燃やすのかを考えると、それは単に政治的正義として正しいからと信じているだけでなくて、そこに一体感や共感などの楽しさを求めてるんです。
それが、フィルターバブルを生み出している。自分にとってコンフォータブルな(居心地の良い)情報を浴びると人間は楽しいんです。
それを全否定するべきではないものだと僕は思います。でも、自分にとってアンコンフォータブルかもしれない人との対話で、世界が広がっていく体験をしたことがあるかどうかということだと思うんです。それで喜びを得られる経験があって、それを何度もくり返していくと、スタンスが広がっていく。
たぶんひとりの人間の中に「自分はこういう考え方だ」という自分と、「考えが違う人と対話する自分が必要だ」という自分を共存させることは可能だと思っていて、それを作っていかなければいけないのです。
一方で、一番の問題は、そういう経験をしたことがない人に対してどうやってサービスを届けるか。サービスそのものによってそういう経験を届けられれば、本当のブレイクスルーになる。
スマートニュースはリコメンデーションする時にも「パーソナライズド・ディスカバリー」といってフィルターバブルに陥らずに発見的なことができるようにしていきたいと思っています。パーソナライゼーションによって(自分の好みの記事だけ読むのではなく)むしろ発見的な体験が起きるようにしていくことができる。
「私はフィルターバブルの中にはいません」「私は客観的でニュートラルです」という見方、ひとりひとりがフィルターバブルを持っているということを否定してしまい、むしろ危険で、「自分はわかってないかもしれない」「将来気づく新しい事実があるかもしれない」という姿勢を持てるようにしていかないといけない。
バブルを持っていることを前提にすれば、どういったアルゴリズムでどういったサービスを作っていけば視野が広がっていくのかということを考えられると思うんです。
でも、これは結構ハードルが高いんです。ニュースサービスだけで提供できるかもまだわかってなくて、それこそ教育も含めて、社会全体で総合的に取り組んでいかなければいけないと思います。
鈴木 健◎スマートニュース代表取締役会長兼社長CEO(最高経営責任者)。1975年生まれ。2012年にスマホ向けニュースアプリを運営するスマートニュースを共同創業。著書に『なめらかな社会とその敵』がある。