スマニュー・鈴木健の熱血討論 アメリカを旅して見えた分断と民主主義


「自分の意見が将来変わるかもしれない」


Q 分断は本当に悪いことなんですか? 人類にとって悪なんでしょうか?

分断は、人類にとって悪かは別として、民主主義にとっては悪であるということです。

そもそも民主主義が機能する大前提は、自分と違う考え方の人の意見を聞くという態度です。それは単に妥協するということではなくて、「自分の意見が将来変わるかもしれない」ということを折り込む姿勢です。

民主主義は基本的に「絶対的に正しい人がいるわけではない」「だからみんなで議論して決めましょう」ということ。絶対的に正しい判断をする人がいるんだったら、その人に任せればいい。民主主義からそういう方向、「独裁」も生まれるわけです。

「もしかしたら話をすることで自分の意見が変わるかもしれない」ということを拒絶してしまうと、強い分断につながる。単に政策的に違うということを超えて「あなたの話は聞きません」という態度になる。それが今、アメリカで起きていることです。

では、民主主義が一番いいのか。

僕自身は民主主義というのが人口の問題と関係していると思っています。民主主義は小さい組織だとワークしやすい一方、スケールが大きくなるとわけがわからなくなる。

人口が3万人とか5万人であれば極めて民主的に運営するのは可能。それが100万人とか1000万人を超えて1億人になったときに分断が起こると、民主主義が機能不全になりかねないわけです。

大きくなればなるほど、取り残されるものがたくさん出てくる。例えば、3万人の街の市長をやるのと、3億人の国の首脳をやるのとでは全然見えている解像度が違う。3万人だとまだ理解できたものが、3億人になると理解できなくなる。

一人の人間が持っている能力には限界がある。だから、分散して処理しなければならなくなるわけです。そうすると結局、みんなで決めていく仕組みにしていかざるをえない。

実は、民主主義的な仕組みは大きくなればなるほど機能不全になる一方、むしろ必要とされてくる。マイノリティも大事にしていかなければいけないから、民主主義的なやり方は大きい組織、大きい国の方が必要になってくる。でも、機能不全も起こしてしまう。

その問題に対してどうやってアプローチするのかということがいわゆる政治的な技術。政治的な技術というのは300年前、500年前に比べれば現代の方が洗練されている。ただ、それには限界があって、社会が複雑すぎてみんなが何をしてるかわからなくなってしまった。

ただ、社会の複雑さに対して、技術が発達すればするほど細かいケアもできるようになる。そのためには、人間が現在持っている限界というのを乗り越えなければいけない。そこにテクノロジーができることがあると思う。つまり、人間だけで今までやってきた処理において、情報技術によってコンピュータが得意なところを補うことでできることが増えるだろうと。

これによって、より少数派の人たちに対するケアをしながら、全体としてプロダクティビティ(生産性)がちゃんと維持されていく、複雑であるまま社会が維持できるケイパビリティ(能力)が上がっていかないといけないと思っているんです。
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文=Forbes JAPAN編集部

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