だが、この謎に包まれたシーインはすでに、同国の小売業界の最も新しいデカコーン(評価額100億ドル以上の未上場企業)として、グローバルな急成長を遂げている。
2008年に創業、南京を拠点とする同社は、ターゲット層をZ世代に絞っている。インスタグラムやTikTokのインフルエンサーを通じて若者たちを引き付け、低価格の衣料品に大量に割引コードを提供している(仏銀行大手ソシエテ・ジェネラルによると、ザラで販売している同様の商品と比べ、価格ほぼ半額)。
それにもかかわらず、宣伝を嫌う同社は、10代の若者以外にはほとんど知られていない。ただ、不振にあえぐ英国のファッション小売大手、アルカディア・グループの買収に名乗りを上げたことから、その状況も変化し始めているかもしれない。
驚異的なハイペースで成長
シーインの物語が始まったのは、2012年初め。米国で生まれ、ワシントン大学を卒業したCEOの許仰天(Chris Xu、またはYangtian Xu) が、それまで手掛けていたウエディングドレス関連の事業をたたみ、「Sheinside.com.」のドメインを取得。レディースアパレルの販売を始めたときだ。
同社は2015年に社名を現在のシーインに変更。海外市場に焦点を当て、同業他社の買収に乗り出した。そして現在、同社にとって最大の市場は米国となっている。そのほか欧州、中東、オーストラリアなどでもウェブサイトを立ち上げ、220カ国向けにオンライン販売を行っている。
シーインの急成長を可能にしてきたのは、これまでに行ってきた資金調達だ。昨年のシリーズEラウンドでは、評価額が150億ドル(約1兆5900億円)を超えた。売上高は公表していないが、中国国内の推計では年間100億ドルを超えるとの見方が示されている。
また、アプリ分析サービスを提供するAppAnnieによると、シーインは昨年9月27日からの1週間、ショッピングアプリの中で、iPhoneを通じたダウンロード数が世界で最も多かったとみられている。国別でみると、米国とブラジル、オーストラリア、英国、サウジアラビアで、トップ10にランクインしていた。