「変人」と聞いて、ビジネスにどんな関係があるのかと思った人もいるのでは。実は「変人」については、多くのビジネスパーソンや学者なども言及している。試しにインターネットで「変人」と検索すると、さまざまな記事や書籍が出てくるはずだ。
この「Forbes JAPAN Web」でも、私のコラム以外にも過去に何度か「変人」がテーマになっている記事が存在する。私が所属する変人学部や変人類学研究所でも、日々そのような記事や書籍を確認し、自分たちの研究に活用している。ということで、ぜひビジネスパーソンにも読んでいただきたいおすすめの「変人」についての本を今回は選んでみた。
明日から使えるコツが書かれている
まず紹介したいのは、『JTの変人採用 「成長を続ける人」の共通点はどこにあるのか』(米田靖之著)だ。JTに新卒入社し、執行役員まで務めた米田靖之さんが、1987年より採用に取り組むなかで気づかれたことが書かれている。
米田靖之著『JTの変人採用 「成長を続ける人」の共通点はどこにあるのか』(KADOKAWA)
米田さんは、採用を通して、どんなタイプの学生が入社後に活躍するのかを長年にわたって観察してきた。すると、入社後に活躍するポテンシャルのある人物の共通した特徴は「変な人」だったという。
本によると「変な人」の特徴はいくつかあるが、特に重要なのは「自分の頭で考える人」という点だ。自分の頭で考える人は、世の中で正しいとされてきたものごとや、常識とされてきたことさえも疑い、自分なりの答えを導き出すことができる。
そのため、結果として人々の「当たり前」の枠外に出てしまい、「変な人」と思われることも少なくない。そして、周囲からそう思われたとしても、そもそも「変な人」の行動指針は自分の判断に基づくため、周囲の視線など恐れない。
だが、単に「変な人」を採用するだけではいけない。活躍する土壌も大切だ。著者は本のなかで一貫して、その視点を「おもしろがる」ことの大切さを述べている。つまり、こういった「変な人」をおもしろがる上司や同僚の存在が必要だということだ。
また、この本を通して、著者は重要な指摘をしている。それは、「誰もが変な人になることができる」ということだ。
筆者はこれまでのコラムで、「変人」とは一部の特別な人だけがもつ特殊能力ではなく、教育や日頃の取り組みで誰もが「変人」として活躍することができると述べてきた。同様に、「変な人」が活躍する会社も決して特別な存在でないことが本には書かれている。
日本企業はイノベーションを起こせないというようなことは、これまで繰り返し言われてきている。そうしたなかで、GAFAのような革新的なオフィスや社内システム、制度などを導入するべきだという意見が出ることも少なくない。だが、これらはあまりにも先進的すぎて、日本社会や日本企業にとってはハードルが高いようにも思える。
一方で、本に書かれているJTのこの取り組みは、極端すぎず、日本のビジネスパーソンや古き良き日本企業にとっても手をつけやすいものだと感じた。
著者である米田さんはJTで新卒入社以来30年以上勤められた方だ。JT自体ももともと大蔵省の流れをくむ日本専売公社が民営化されたという歴史を持つ。そんな著者が、「変な人」を採用する際の具体的なポイントや、JTの社風、「変な人」に誰でもなれる仕事の取り組み方やマインドなど、明日から使えるコツがこれでもかと書かれている。
企業経営者や採用担当に限らず、おもしろい仕事をしたい、ビジネスパーソンとしてひと皮むけたいと考えているすべての人にとって参考になる「変人のすすめ」だと思う。