ビジネス

2021.02.26

長野が生んだ非効率型「食のSPA」。久世福商店流、ヒット商品の開発法


その経験から開発したブランドが「久世福商店」だ。リヤカーを引いてソースを商った祖父、福松の名から取った。デザインコンセプトには「大正ロマン」を掲げた。「生産者から始まった自分たちは、販路に困った歩みがある」という苦労の歴史がヒントになった。

「全国に同じ思いの生産者も多いんじゃないか。コンセプト資料を手に、全国を回りました。すると、生産者さんから『その商材なら、あそこへ行くといい』と輪を広げてもらえたんです」


自信をもって語れる味を生産者と開発。2年がかりで改良した自信作「渡り蟹のトマトクリームソース」は、生産者の協力で蟹の味や肉質を向上、以前と同量で売価を3割下げることにも成功。サンクゼールの丘にあるワイナリーレストランでも味わえる。

2013年、1号店のイオンモール幕張新都心店をオープン。その後、試行錯誤を重ねて小売り展開や店舗開発力のノウハウを蓄積。各地域でフランチャイズを展開していく。現在、生産者とのネットワークである「ぶどうの木の会」は400社ほどに成長した。昨年はZoom開催だったものの、例年夏にはサンクゼールの丘で一堂に会して、全国の海の幸、山の幸をもち寄って大いに盛り上がる。その場で他の生産者と意気投合し、会員同士がつながり商品開発のヒントが生まれる例も多い。

「商品経営」と「現場主義」


17年、先代の父が会長となったのに伴い、久世が社長に就く。力を入れたのは定番商品の底上げだ。投資がかさむ拡大路線を整理し、ラインナップ全点を精査。サンクゼールは約1100アイテムを700点に、久世福商店は約1500アイテムを1100点にいったん絞った。商品に思い入れがある開発や販売の現場から反対の嵐にあった。なぜ売れ筋をあえて切るのか?

「社長就任時は、昨対比が割れた時期。量的な拡大を求めた“ひずみ”が現れてお客さまが離れた面もあり、しっかり推せる定番品をつくり直そうと考えました」


ブランド力は「定番商品の実力」で培う。創業の原点を語る調理ソース、フルーツジャム、バターシリーズ。これら定番商品は売り場でメインに展開され、顧客との重要なタッチポイントとなる。この味で信頼を築き、他の商品へ次第に手を伸ばしてもらう。

こうした姿勢を「商品経営」として掲げ、商品の改良と刷新を図る。アイテム精査の際に重視したのは、売り上げよりも、味と、“らしさ”。ここにも「非効率」といえる創造性がある。基準は、「自分たちの商品として自信をもって語れるか」「ストーリーが商品の強みに現れているか」だ。「母がペンションでつくったジャムに添加物はありません。でも、生産工程を効率化する釜での調理は、煮立てると泡がすごく出るので、充じゅう填てん前に消泡剤を使います。健康を害するものでないにせよ、本来は要らないんじゃないか。試しに消泡剤を食べてみたら、とてもまずい。夕礼のとき『この消泡剤、食べたことある?』と回して食べてもらいました。『これを使わないで済むように、みんなで頑張ろうよ!』と」

この日を境に「商品経営」という自らのビジョンが全員の自分事になった。


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サンクゼール◎1979年、長野県で創業。地元の飯綱町と信濃町でブドウ栽培からワイン醸造までを行い、ジャムや調味料などの幅広い食品を自社で製造。メーカーズブランド「サンクゼール」、和のセレクトショップ「久世福商店」の2ブランドに加え、アメリカで「Kuze Fuku &Sons」を展開。

くぜ・りょうた◎1977年生まれ。2002年、電気通信大学大学院修了後、セイコーエプソン入社。プリンター部品などの研究開発に携わる。05年、サンクゼール入社。経営サポート本部長などを経て11年から専務。17年、創業者である父の良三が代表権のある会長となったのに伴い、代表取締役社長に就任。新設した副社長に弟の直樹が就いた。

文=神吉弘邦 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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