ビジネス

2021.02.25

DIYの拡大解釈から始まった、1兆円グループの稼ぎ頭「カインズ」の発想力

カインズ会長の土屋裕雅


そして18年、またまた業界を驚かせることになったのが「IT小売企業」宣言だ。ITの潮流には当然気づいていたものの、決定的にしたのは、前年に米国でアマゾン・ウェブ・サービスのカンファレンス「AWS re:Invent 2017」に参加したことだ。

「デジタルは自分たちには関係ないと思っていましたが、これは大変なことになるぞ、と感じました。ただ、彼らがやろうとしているイノベーションは、我々が取り入れてもいいイノベーションでもあると気づきましてね。どうせならデジタルを導入して、“最もうまく使いこなす小売業”になればいいと」

このとき、社内にシステムエンジニアは一人もいなかった。あったのは方向性だけ。ところがここから1年半ほどで、東京・表参道にデジタル事業を開発する100人規模のラボができた。店舗づくりも経営も、一気にDXにかじを切る。

「アプリやロッカーなどは、コロナの環境下でも支持をいただきました。でも、コロナ以前から取り組んでいたので、この時期に間に合ったんです」

土屋の大きな特色は、機敏に世の中の空気をつかみ、方向性を定めていくことだ。そのために意識していることがある。

「どんなことからでも学びはある、ということです。私は海外にも積極的に出るようにしていて、例えば南アフリカのローカルホームセンターを視察した際に驚いたのは、日本より進んでいる点が多々あったこと。とりわけ、店舗デザインは素晴らしかった」

このとき、米ウォルマートの創業者、サム・ウォルトンの信条を思い出したという。現場に足を運ぶことの重要性を説く“Management by WalkingAround”という言葉だ。

「サムが他の幹部とともに店舗を視察したときのこと。箸にも棒にもかからないような店だったので、みんなすぐに出てきてしまった。学ぶところはない、と。ところが、サムは出てこない。聞けば『ここはストッキング売り場が素晴らしい』と語ったそうです。どんなことからでも学びを得ているんですね」

本文の続きはForbes JAPAN4月号でお読みいただけます。


つちや・ひろまさ◎1966年生まれ。野村證券勤務を経て、父・土屋嘉雄(現ベイシア会長)が群馬県伊勢崎市で創業したいせや(ベイシアの前身)に、96年入社。 98年、ベイシアより分社化したカインズに入社。2000年に同社常務取締役、02年に取締役社長就任。19年、カインズ会長に就任し、ベイシアグループ全体のかじ取りを担う。

文=上阪 徹 写真=大中 啓 ヘアメイク=AKINO@Llano Hair (3rd)

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事