ビジネス

2021.02.25

DIYの拡大解釈から始まった、1兆円グループの稼ぎ頭「カインズ」の発想力

カインズ会長の土屋裕雅


帰国後は、トップ自ら一人ひとりとミーティングの時間をもち、全員と直接、対話を重ねた。

「個別に話を聞くと、意外に面白いことを考えていたりするんですよ。でも、全員の前では出てこない。伝えること、そして引き出すことには、時間を惜しみませんでしたね」

商品開発は簡単には軌道に乗らなかった。それでも、07年には「SPA企業」を宣言してしまう。「もう後戻りはしない、と自分を追い込んだところもあります」

商品企画から管理、物流、販売まで自社で一貫して行う体制を整えると、やがて商品開発力がブレイク。カインズにしかできない成長が始まる。

漬け物だってDIYだ!


再び業界を驚かせることになったのは、ホームセンターのDIY概念を変えてしまった土屋の「DIYの拡大解釈」だ。これには意外なきっかけがあった。15年、カインズはアジアで初めてEDRA(欧州DIY小売業協会)に加盟。この年にロンドンで開催された「グローバルDIYサミット」で、土屋が日本代表として講演を依頼されたのだ。

「欧米では一足先にDIYブームが起きていたんですが、『皆さんから教えてもらって成長しました』なんてプレゼンするのはイヤだった。何か少しでも日本の事例から学んでもらえることが言えないものかと考えたんです」

折しもカインズのSPA化が軌道に乗り始めた時期。土屋が気づいたのは、ホームセンターのDIY用品だけで家まで建ててしまう“本格派”の欧米との、品揃えの違いだった。

「日本のホームセンターは、日用雑貨など普通の生活に近い商品もかなり多い。お客様の期待は、ここにもあるわけです。

その意味では、バーベキュー用の燻製チップにこだわるか、家で野沢菜を漬けるための道具を探すことだって、立派なDIYじゃないか。欧米型のDIYだけがDIYなのではなく、もっと拡大解釈して、生活機能を上げることはすべてDIYだと考えたんです」

まさに日本型のDIY。今度は欧米のホームセンター関係者を驚かすことになった。だがこれは、海外での講演というアウトプットの機会があったからこそ、思いついたことだったという。

「拡大解釈されたDIYを楽しめる店にしよう」というコンセプトが定まると、売り場はどんどん変わっていった。ワークショップが始まり、DIYを楽しむための動画もつくられるようになった。


DIYの拡大解釈:料理や掃除など日常の家事から睡眠環境、アウトドアライフまで、暮らしを楽しむ工夫すべてをDIYととらえ、売り場や公式メディア「となりのカインズさん」を通して提案。女子高生や主婦にまでリーチが広がった。
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文=上阪 徹 写真=大中 啓 ヘアメイク=AKINO@Llano Hair (3rd)

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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