16歳で料理の道に入った彼は、ロンドンの三つ星レストランを経て、ニューヨークとパリを代表する三つ星フレンチで活躍。2016年に香港「ベロン」のヘッドシェフに就任し、数年でミシュラン一つ星を獲得、「アジアのベストレストラン50」で4位にランクインする快挙を達成した。
実は、彼にとって東京は「NYを出る頃から頭の中にあった場所」なのだという。ロンドンかららこの地へ。16歳から33歳まで、自身のまさに半生というべき16年に、どんな転機があり、どう戦略を立て、道を選んできたのか。
圧倒的な結果を出し続ける彼のキャリアとその考え方は、ビジネスパーソンにとっても大きなヒントとなるはずだ──。
13歳で「シェフになる」と決めた
ダニエル・カルバートは1987年、イギリス南東部のサリー州に生まれた。彼の料理を始めたのは、12歳の頃。両親が離婚し、仕事を掛け持ちしながら3人の兄弟を育てる母の変わりに台所に立つようになった。
シェフになろうと思ったのは、13歳の時だ。「なぜそう思ったのか今もわからないけれど、『将来何になりたいの?』と聞かれたときに、迷わずシェフと答えたんだ。勉強も普通にできたけれど、これ以上教室に座って人の話を聞き続けるのは違うなと感じていた」という。
そう決めてからは家での料理への向き合い方も変わり、知識はないながらも手を動かし、料理人として働く準備を始めた。そして16歳の夏、イギリスの義務教育を終えると、翌月にはレストランの厨房に立っていた。
キャリアのスタートは、ロンドンの人気店「The Ivy」。劇場の近くにあり、劇前・中・後の3回転でおよそ300人が訪れる大型店だった。まずはサラダを担当しながら、包丁の使い方やサービスを覚え、なによりも「仕事環境でどう大人と付き合うのか」を学んだ。
「義務教育を終えていきなり社会に出たので、大きな環境の変化だった。とはいえ、大学を出て21-23歳でも同じだった気がする。そういう意味では早くスタートが切れてよかったと思う」
The IVYの外観(RichartPhotos / Shutterstock.com)
そこで修行すること2年、パスタの責任者となり、おそらく店は彼がいずれスーシェフになることを願っていた頃、カルバートはロンドンの二つ星「Pied a Terre」の門を叩いた。文字通り「キッチンの裏口をノックした」という。なぜその店なのかは、「その時、街で一番のレストラン」だったから。これは彼が働く店を選ぶ決め手であり続ける。
大箱だったThe IVYと違い、Pied a Terreは、「1日30組ほどのゲストで、キッチンには10人以下。その規模だから、全員が野菜も魚もパンもすべてのことができる。とても集中した環境だった」。そこで彼はどのように、何を学んだのか。