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NYの三つ星店で学んだこと


そこでカルバートは、最年少でスーシェフに抜擢される。「まわりの23歳は、料理学校を出たばかりの年齢。でも僕には7年のキャリアと、ロンドンの二つ星で働いた経験もあった」と、スタートの早さに触れるが、それ以上のものが評価されたのは間違いない。

スーシェフとは、企業でいう副社長のような立場だ。ある一定のセクションに責任を持ち、トップにレポートする。「信頼できて、責任感があり、リーダーシップを発揮すること。さらに一貫性、効率性やクリエイティビティも求められる」というそのポジションで、カルバートは、プライベートダイニングやキッチン全体の指揮を担っていた。


トーマス・ケラー(左、Getty Images)

「Per Seの規模では、自分で作ることはもちろん、全部をチェックすることも難しい。そこで大事なのは、いかに他のスタッフがそれをできるように教育し、質を保てるようにするか。誰に何を任せ、人をどう動かしていくかの采配です。

シェフとして成功して、拡大したり多店舗展開したりするなら、それができる体制を作るのはマスト。日によって味が違うのはあってはならないし、『ゲストのために料理を提供する』ことを忘れるようなら、この業界にいるべきじゃないですね」

スーシェフからアシスタントに


そこで5年の年月を経て、パリのホテル「ル ブリストル パリ」のレストラン「Epicure」に移る。転職自体は、「トーマスがブリストルのシェフに連絡してくれた」ためスムーズだったが、その中身がハードだった。

三つ星のスーシェフを努めた人間が、フレンチで“コミ”というアシスタントとして入ることになったのだ。パリでも他の店であれば、もっと上のポジションもあり得たが、やはり、街で一番の店以外の選択肢はなかった。

「フランス料理のシェフとして、パリで仕事がしたかった。でも、フランス語ができなかったから、ブリストルではまた一からのスタート。キッチンで最年長になるのは初めてで、26歳で21歳に質問したりするのだけど、改めて謙虚に教えを乞ういい経験だった」

自分を高めてくれる環境のためなら、プライドも捨てられる。彼をそこまで動かすブリストルは、同じ三つ星でも、全くの別物だった。

「Per Seは体制がしっかりして、ハイクオリティながらスケールができている店。一方のブリストルは、すべてがオーダーメイド。例えばロブスターでも、かたやメニューが決まって準備されているのと、かたやオーダーが入ってから捌いて、火を入れて、ソースを作るのと。僕はキッチンや料理の多くをPer Seで身に付けたけれど、最後の最後まで手をかけることはブリストルで学んだ。もし違う道を選んでいたら、今の僕の料理はないと思う」

インタビュー=岩瀬大輔 写真=小田駿一 編集=鈴木奈央

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