タン:「インターネット・オブ・ビーイングス」という言葉があります。つくったのは私ではなく、パーソナルコンピューティングの台湾におけるヒーロー、スタン・シーです。インターネット・オブ・シングズはITで機械と機械をつなぐ、デジタルは人と人をつなぐ、それがインターネット・オブ・ビーイングスだと言いました(注14)。
今、ここで私たちがつながっているのを見ると、少し重なっています。画面上で私が少し左へ移動すると、近くなりすぎて上田さんと私の顔が重なってしまう。これでは会話ができなくなってしまいます。
インターネット・オブ・ビーイングスの世界では、人と人の距離が短いほうが素早く対応でき、より共感できるのでよいわけですが、短すぎるとコミュニケーションができなくなってしまいます。
ですので、インターネット・オブ・ビーイングスの中にも「境界(バンダリ)」が存在します。
注14:施振栄(せ・しんえい、スタン・シー=Stan Shih)は台湾の大手IT企業、宏碁(エイサー)の共同設立者で現在は名誉董事長(名誉会長)。台北国際コンピューター見本市(COMPUTEX)2015年の基調講演で、人がインサイトを得るために、インターネット・オブ・ビーイングスがインテリジェンスを、インターネット・オブ・シングズがインフォメーションとデータをそれぞれ担う、と述べた。
(撮影:姚 巧梅)
Audrey Tang(唐鳳、オードリー・タン)◎台湾デジタル担当政務委員。1981年台湾・台北市生まれ。12歳でPerlを学び始める。15歳で中学校を中退、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳のときに米シリコンバレーでソフトウェア会社を起業する。2005年、プログラミング言語「Perl6(現Raku)」開発への貢献で注目される。2014年、米アップルでSiriなど高レベルの人工知能プロジェクトに加わる。2016年10月、蔡英文政権の行政院(内閣)に入り、デジタル担当の政務委員(閣僚)となり、部門を超えて行政や政治のデジタル化を進める。2019年、米国の外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100人に選出。著書に『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)がある。
(撮影:日経クロステック)
上田岳弘(うえだ・たかひろ)◎1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、IT企業の創業に参画し、現在は役員を務める。2013年『太陽』で第45回新潮新人賞を受賞し、純文学作家としてデビュー。2015年『私の恋人』で第28回三島由紀夫賞、2018年『塔と重力』で第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞、2019年『ニムロッド』で第160回芥川龍之介賞を受賞。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』『ニムロッド』『キュー』がある。
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ベンチャー企業役員で芥川賞作家。彼は「小説」をどうビジネスに取り込んでいるか