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2021.03.03

「世界は1つになり、終わるのか」、台湾デジタル大臣とIT企業役員の作家に見える未来

語り合う上田岳弘氏(左)とオードリー・タン氏(右)。


上田:睡眠学習ですね(笑)。『インターステラー』と『インセプション』を僕は見ましたが『TENET テネット』はまだ見ていません(注11)。見たほうがいいですよね。

タン:はい、もし『インターステラー』が好きであれば、きっと『TENET テネット』も気に入りますよ。私も『インターステラー』と『インセプション』を見ました。

上田:映画館に行くのも微妙な雰囲気があってこのところあまり行っていなかったのですが、少しずつ変わってきています。僕は『インターステラー』などあの監督の作品が好きで。SF(サイエンスフィクション)と現在の社会を地続きで描いているところですね。ただのファンタジーではなく、SFとしてのレベル感がちょうどよく、すごく面白いなと。

世界は「肉の海」になる


上田:実は僕の小説も純文学ではありつつSFめいたことを書いています。繰り返し書いているのが「肉の海」というビジョンです。ざっくり言うと、人間が一塊になってしまう。『新世紀エヴァンゲリオン』のラスト、『AKIRA』のラストのような感じですね(注12)。

『新世紀エヴァンゲリオン』や『AKIRA』が作られたときは夢物語で非現実だったことが現代社会と地続きになってきている。ITや生命工学が発展し、自分が彼であり彼が自分である、自分と他人が同一になっていけるかもしれない。そうすると最後は人類が一体になるような気がしていて。その姿を「肉の海」と呼び、複数の小説の中で追究してきました(注13)。

例えばエヴァンゲリオンの結末は避けなければならない未来だと思っています。避けるべき未来のビジョンを純文学と呼ばれる芸術的な小説の中に入れているわけです。

タンさんは人類が一体になることへの恐怖のようなものを感じたりしますか。

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(撮影:日経クロステック)

注11:いずれもクリストファー・ノーラン監督が撮った映画。『インセプション』は2010年、『インターステラー』は2014年、それぞれ公開された。

注12:『AKIRA』は大友克洋によるSF漫画。1982年から『週刊ヤングマガジン』に連載された。1988年7月、アニメ映画が公開。

注13:肉の海は上田氏の2作目『惑星』で登場し、『重力のない世界』『ニムロッド』『キュー』といった諸作品で描写されている。芥川賞受賞作の『ニムロッド』には「生産性を最大限に高めるために彼らは個をほどき、どろどろと一つに溶け合ってしまった。(中略)情報技術で個の意識を共有し、倫理をアップデートしてしまえば、その個を超越した価値基準に体の形状をあわせることへの躊躇いなんてなくなる」といった描写がある。長編『キュー』では「寿命の廃止」「個の廃止」「言語の廃止」といった過程を経て世界が一つになり、終わっていく様子が描かれた。また2018年には『オフィス3◯◯』の40周年記念公演として上田氏の『塔と重力』を原作とする『肉の海』が東京下北沢の本多劇場で上演された。
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文=谷島 宣之

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