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2021.03.03

「世界は1つになり、終わるのか」、台湾デジタル大臣とIT企業役員の作家に見える未来

語り合う上田岳弘氏(左)とオードリー・タン氏(右)。

早朝に純文学を書き、日中は起業したIT企業の役員を務める「クロステックな作家」上田岳弘氏が「アート&テック」をテーマにアーティストやテクノロジストと語り合う。

今回の対談相手は台湾のデジタル担当政務委員、オードリー・タン氏。政務委員は日本で言えば閣僚に当たる。世界的に著名なプログラマーでありデジタル担当大臣であるタン氏と上田氏がITの進化を踏まえ、世界がどうなっていくかを語り合った。ドラえもんを未来像とするタン氏に対し、上田氏は「肉の海」と呼ぶ暗いビジョンを持つ(構成=谷島 宣之、通訳=大石 有美)。


上田:僕は起業したIT企業で日中働きながら朝、純文学と呼ばれる芸術性に重きを置いた小説を書いています。風変わりな小説家といわれています(注1)。

タン:大きなプログラムやアーキテクチャーを考え、コードを書くことと、小説や詩を書くことにはたくさんの類似点があります。韻や正確性、それに意味を加える必要がありますから。風変わりでは全然ありません。自然だと思います。私たちの今の距離感と同じようにごく自然なことでしょう(注2)。

上田:タンさんにそう言っていただけるとうれしいですね。僕には繰り返し描く世界観というか、一種の強迫概念があって、そこが分かりづらいかもしれません。質問があったらなんなりと聞いてください。

タン:通訳不能ということですね。日本語で直接聞いたほうがよいのでしょうが、分かりました。こちらにも総統の記者会見で以前通訳をしていた者が側におります。十分な数の通訳者がいれば通訳や翻訳で不可能なことは本来ないはずです。まさにコレクティブインテリジェンス(注3)ですね。

注1:上田氏は学生時代に知人が設立したIT企業に参画、現在でも役員を務め、提携や広報などを担当する。夜8時から9時の間に寝て、朝3時から4時の間に起き、小説を書く。2020年から2021年にかけ、2作目となる長編を推敲(すいこう)中という。

注2:著名なプログラマーでもあるタン氏は自著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)で「デジタルの時代になればなるほど、文学的素養は欠かせず、重要性を増す」と述べている。
「理想的なプログラムを書き上げるためには、頭の中にある概念を文字に変換していかなければいけません。これは文学と同じです。プログラミングのコードと、文学における韻を踏むことが異なるだけです」。

注3:collective intelligenceは集団的知性と訳される。複数の人々が協力し合うことで生まれるインテリジェンスを指す。
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文=谷島 宣之

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