伏線を完全回収 原作者も驚嘆する韓国映画「藁にもすがる獣たち」の完成度

バッグに入った大金は誰の手にわたるのか。Copyright(c)2020 MegaboxJoongAng PLUS M & B.A. ENTERTAINMENT CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED. (c)曽根圭介/講談社


映画の冒頭は、まずルイ・ヴィトンのボストンバッグのアップから始まる。誰かが提げているバッグなのだが、それがロッカーに押し込まれると、そこは深夜のサウナだ。バッグの中身は10億ウォン(約1億円)近い札束が詰まっており、この現金をめぐって、時系列を前後させながら、3人の人物のストーリーが展開していく。

1人目は、この現金入りのバッグをロッカーから発見するジュンマン(ぺ・ソンウ)。彼は親から受け継いだ飲食店を潰してしまい、いまはサウナでアルバイト店員をしている。娘の学費もようやく払い、家には認知症の母親がいて、妻も空港の清掃員として働いている。彼の夢は、もう一度店を開くことで、バッグの現金が頭にちらついている。

2人目は、人妻のミラン(シン・ヒョンビン)。自らの投資の失敗で借金をつくってしまい、いまは夫に隠れて風俗店で働いている。夫からは借金を理由に激しいDVを受けており、地獄の日々を送っていた。しかし、夫には密かに多額の生命保険がかけられており、ミランは店で知り合った不法滞在者の青年と組んで、一計を案じる。

3人目は、空港の出入国審査官のテヨン(チョン・ウソン)。女性に入れあげ、彼女に騙され莫大な負債をつくってしまい、筋の悪い金融業者から借り入れをしたために、いまは暴力をちらつかせられながら返済を迫られている。詐欺事件で大金を手にして警察に追われている昔の同級生の海外逃亡を助けることで、一発逆転を狙う。

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物語は、テヨンを騙して姿を隠した女性ヨンヒ(チョン・ドヨン)がキーパーソンとなり、先の3人の思惑が微妙に絡み合いながら、テンポよく進行していく。とはいえ、それぞれ一筋縄では行かない展開が控えており、次から次へと繰り出される新たな事態に、最終的にバッグの大金を手にする人間は誰なのか、興味はそこへと繋がれていく。

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原作者も驚嘆する映画の出来映え


作品のメガホンをとったのは、これが長編映画第1作となるキム・ヨンフン監督。写真で見る限りは、かなり若い印象を受けるが、それまで短編やドキュメンタリーで培った経験を、この作品に結実させたという。そもそもヨンフン監督は、何故この日本の小説を原作にして、自らの長編処女作品として撮ろうと思ったのだろうか。

「まず、タイトルにとても惹かれました。緊迫感を感じて、とても気になり、実際に読んでみると自分の好みの物語で、映画化してみようと思いました」と語るヨンフン監督、ひと晩で原作を読み切り、その後2カ月をかけて脚本を書いたという。
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文=稲垣伸寿

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