あらためて見てみるとどれもその出来栄えは良い。しかし、宮崎県小林市による「フランス語に聞こえる西諸弁」(2015年からの類型再生回数約285万)などのお化けコンテンツといったいくつかの事例を除けば、その閲覧数や登録数は決して多くはない。多くて数千から数万PV程度だ。
2010年代は「いい動画」が目的化したのかもしれない。時代によって求められる動画の方向性は変わってくし、ソーシャルメディアとの連携はもとより、シティ・プロモーションの発想から自治体の持つ要素を掛け合わせ、一過性でない施策とするべきだろう。
そして長野市の行った動画プロモーションは、3種類の傾向とはまた違うものだ。第1弾(2020年10月)のPV数はすでに16万PVを超え、第2弾、第3弾がスタートしている。その勘所を聞いた。
動画施策の勘所、「共感」
長期戦略を踏まえた長野市の大きな課題のひとつは「若い層」の流入だった。全国的に有名な「善光寺」に訪れる人のほとんどは中高年層だ。動画施策は若者に知ってもらうためのツールとなりうるもので、同市が考える動画は、そのコンセプトを「共感」に置いた。
「未来の長野ファンを、長期的かつ継続的に増やしていくことを狙いとしました。風景の動画、芸能人による旅番組のようなものではなく、拡散力を持つ「インフルエンサー」の起用です。10年近くYouTuberの第一線で活躍する〈関根りさ〉さんが第1弾を担当しました」(竹内)
●Go To 長野市 デジタル世代のススメ
〜善光寺〈リフレッシュ旅〉〜関根りさ
この起用が、共感とどこでつながるのか。
「私たちが準備を進める中で、若い人は、癒しや共感を求めている傾向があることを、あらためて認識しました。自分と同じ目線で何かを体験しているコンテンツに非常に好感を持つのです。ならば、編集に凝った内容ではなく、ありのままの体験が伝わるものが良いのです。関根さんのやり方はいわゆる〈Vlog〉という見せ方で、昨今増えているこの手法は発信者と閲覧者の目線が近い。自分ごととして伝わりやすいスタイルで、且つ長野市の良さを自分の言葉で語れることが重要なのです」(荒井)
自由気ままに行きたいところへ。飾らない思ったままの言葉が伝わる。
映画やドラマ仕立てのような形は作品としては良いだろうが、「さあ!見てくれ!」という一方通行になる。視聴者との目線が近いVlogは何かを紹介するのには最適だろう。とはいえ、これはいわゆる「案件」と言われるタイアップ広告だ。にもかかわらず、長野市側は、あれもこれもと、多くのリクエストをしなかった。
「基本的に、この場所にこういうものがありますといったスポットはいくつか紹介させていただいて、お渡しするのは基本情報とテーマだけですね。関根さんのケースもほかの時も、基本的には皆さんご自身の構成と言葉で実施してもらっています」(竹内)
そして、長野市は、ただインフルエンサーの動画を配信するだけでなくその受け皿を整えた。
「インフルエンサーさんのチャンネルで動画発信するだけではなく、動画で何かを感じてもらったファンに、『次の行動のきっかけ』『長野ファン育成』の仕掛けとして、旅というコンセプトで特設のランディングページも作りました。その中には実際に訪れた時のコースとかYouTube動画のメイキング動画など、魅力紹介ページにとどまらないコンテンツとしての価値を生み出そうと考えています」(竹内)