ビッグイベント目白押しの「中東スポーツ産業」 政府の積極投資で成長加速


──COVID-19感染拡大による影響について、聞かせてください。

COVID-19の影響は北米や欧州と比較するとそれほど大きくなかったと言えるだろう。中東諸国ではサッカーリーグを含む様々なスポーツが中断を余儀なくされたが、2020年7月には米総合格闘技「UFC 251」をアブダビで開催するなど、国際大会をいち早く開催することができたことは大きな功績だった。

制限付きではあるものの「FIFAクラブワールドカップ カタール 2020」を有観客で開催することができた。これらを可能としたのは、政府の協力のもと、感染対策のための設備(ホテルやトレーニング施設等)や移動手段が整っていたことに加え、電子決済等のコロナ禍における新たな観戦様式に対応する設備がすでにスタジアム内に整備されていたことだ。デジタルテクノロジーの需要が、特に観戦体験やスタジアム内のサービスにおいて高まっており、さらなる変革が求められている。


Photo by David Ramos - FIFA/FIFA via Getty Images

政府による積極投資 注目は?


──国際大会の開催やDXの推進など、政府の強い後押しによってスポーツ産業全体が活性化しているということですね。政府がスポーツに積極的に投資を行う背景はなんでしょうか。

主な理由は2つある。まず1つ目は、良質なスポーツコンテンツの提供により国民のQOLを向上させるためだ。国内スポーツの競技レベルや観戦体験向上を目的とした投資を行うことで、国民がスポーツ観戦時に得られる満足度が高まることを期待している。競技レベル向上策の具体例として、昨年サウジアラビアに設立された大型サッカーアカデミー(マフド・スポーツアカデミー)がある。次世代を担うユース世代の育成に国を挙げて力を入れている。

また、国民に健康的な暮らしを提供するために、スポーツを実施する環境の整備にも積極的に投資を行っている。サウジアラビアではその結果、2016年には13%だった国民のスポーツ参加率が、2020年に20%まで向上した。

2つ目は、国際的なメジャー大会を招致することによる世界に対するアピール、外交が狙いだ。諸外国や投資家に対して、中東諸国が有する資源や環境が充実していることを宣伝でき、国内外から多くの要人や観客を呼び込むことができる。大会中のスポーツツーリズムの振興はもちろん、観客たちが大会後に再び旅行客として開催都市を訪れることも期待している。

──最近ではどのような投資が注目されていますか。

新たな取組みとして、今年6月にサウジアラビア政府により「Nafes」というオンライン・ライセンシングプラットフォームが設立されたことが挙げられる。

このプラットフォームを通して、海外の民間企業や投資家がサウジアラビア国内のスポーツチームやアカデミー等に出資し、経営権を取得することが可能となった。外資の参入によって、産業の活性化はさらに加速するものと期待されている。
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文=菅原政規、安西浩隆、寺尾慎吾 編集=宇藤智子

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