ファストリ株は1株当たり終値で10万2500円となり、10万円台になるのは上場以来初めてだ。また、19日の終値では10万4750円をつけ、時価総額はあっという間に11兆円を超えた。
20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材し、柳井正氏への取材経験も持つファッションビジネスジャーナリストの松下久美氏に、今回のファストリ快挙の理由について語ってもらった。
コロナ禍でより強みとなった「購入想起率」
要因としては、大きく分けて3つあります。
まず1つ目に、やはりパンデミックの影響が大きいですね。巣篭もり消費の需要が高まるなかで、部屋着として、また外出できる日常着としても使用できるユニクロの商材は、高まるニーズにちょうどマッチしていました。
また、気軽に買い物に行くことが困難となったなかで、短時間で買い物を済ませなければならない、あるいはEコマースで購入しようとなるわけですが、そのときにどのブランドの服を買おう、どこのお店で買おうという、いわゆる「購入想起率」が重要となってきます。
短期間で効率的に買い物をしようとすれば、自然に信頼度や安心感を重視することになり、誰もがよく知る知名度のあるブランドに購買が集中する傾向があります。そうなったときに想起されるブランドとして上位に組み込まれるのが、ユニクロやGUだった、ということが言えます。
対してZARAはというと、トレンド性やデザイン性が高く、おしゃれ着や外出着のイメージが高いブランドです。ターゲット層に関しても、主に20〜40代がメインで、ユニクロの老若男女問わない幅広い客層と比べるとどうしても狭くなります。
いまは、洋服はトレンドを追いかけるよりも、ベーシックなもの、タイムレスなものを着て、他の趣味嗜好にお金や時間を費やしたいという消費性向や、サステナブルなものを選びたいという考え方が広まっています。ユニクロの商材は、そうした時勢に非常に好適だったのだと思います。
アジア圏の強さ
2つ目は、日本、アジアを中心に成長しているファストリ、ユニクロと、かたやスペインを発祥地として、主にヨーロッパをメインにビジネスを展開しているインディテックス、そこで格差がついてきたのだと思います。
インディテックスはZARAを中心に、現在、世界で約7200店舗を展開していて、そのうち過半数の約4800店舗がヨーロッパにあります。
そして、コロナの文脈で見ると、アジアの方が顕著に回復している。こうした地政学的な面も、ファストリがインディテックスを抜いた一つの要因になったのでしょう。
ファストリ株が持つ安心感
3つ目に、日銀の存在があります。日銀は上場投資信託(ETF)の買い入れにより、ファストリ株の20%以上のシェアを持つ、実質的な大株主でもあります。
いま、日経平均株価の採用銘柄が225あるなかで、、ファストリ株は225分の1であるにもかかわらず、約12%も寄与しています。なので、そこが上がれば日経平均も上がるということで非常に大きな影響力を持っていることと、日銀が買っている安心銘柄というイメージも強いと思うんですね。
まとめると、コロナの時代にあったエッシェンシャルウェアであること、アジアを拠点として成長していること、日銀が実質的な大株主であり、株が強く、上昇していること、この3つが、インディテックスに逆転する大きな要因になったと考えています。