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2021.02.26

トップこそ正直たれ。ブランディングに差をつける経営哲学|マザーハウス 山崎大祐#3

マザーハウス 山崎大祐

『途上国から世界に通用するブランドをつくる』というビジョンのもと、バングラデシュをはじめとしたアジア6カ国でのものづくり、そして国内外38店舗を展開するマザーハウス。2006年の創業以来、代表の山口絵理子氏とともに同社を牽引してきた山崎大祐 代表取締役副社長に、経営者の素養、世界で通用する事業作りについて聞いた(全3話中、第3話。第1話第2話はこちら)


トップが「正直に」語ることの重要性


──ブランディングについてもお聞かせください。御社は商品顧客、人材採用のどちらにおいても非常に熱量の高い「ファン」を獲得できていると感じます。

2つ意識していることがあって、1つめのキーワードは「お客様の『ために』から『共に』へ」です。

たとえば「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念がマザーハウスにはありますが、これは社員だけでなくお客様と「共に」達成していくものです。

具体的なアクションとして、私たちはお客様と「共に」商品企画をする場を作ったり、途上国の工場で「共に」ものづくりをする機会を作ったりしています。

社会にとって本当に必要なビジョン・ミッションであれば、必ず共感して行動してくれる人がいます。会社から一方的にメッセージを発信するだけでなく、「共に」ブランドを作り上げていくことを大切にしています。

2つ目のキーワードは「正直であれ」ということです。

誰しもが発信できる世の中で、嘘をついて取り繕っていても必ずどこかから情報が漏れます。共感していないことを「共感しています」と言ったところで、ぜったいにバレる時代です。

代表の山口や私をはじめ、マザーハウスの社員はみんな「正直」です。そして正直でいれば、必ず応援してくれる人がいるものなのです。

──たしかに、御社は山口さん、山崎さん共にメッセージを語る場をたくさん作られています。

トップが思いを上手く語れるようになるには、トレーニングとオポチュニティを増やすことが必要です。私たちは社外・社内ともにあらゆる機会で思いを語り続けているからこそ、メッセージが洗練されて多くの方に共感していただくことができています。

社外に向けてトップが思いを語る場を増やすことで、一番差がつくのは「採用」です。「採用」はトップがコミットすべきことだし、トップが正直に語らない会社に候補者は集まりません。

また社内プレゼンテーションも私たちはいつだって本気です。社内スタッフを感動させられないと、お客様を感動させられることはできないからです。

トップこそ「正直たれ」。これはブランディングにおいても採用においても大切なことだと思います。

世界と戦うために問われる「トップの覚悟」


──台湾、香港、シンガポールと、次々に海外にも出店されています。海外展開において重視していることをお聞かせください。

2つ重視しているポイントがあって、1つめはトップが本気でコミットすること。それによりスピード感を持ってリスクテイクしていくことです。

例えば2019年3月に出店したシンガポール空港の店舗は、最初は私一人で交渉に行きました。特に小売業界は海外進出している日本企業が全然いないので、日本人のトップがいきなり一人で来てびっくりされたのを覚えています。そして最初の交渉から1週間後には理想の条件に近い提示が先方からあり、残り2、3回のミーティングで出店が決まりました。

このスピード感が海外では必要ですし、そのためにはトップが本気でコミットするしかありません。

2つ目は「続けること」です。最初からは絶対にうまくいかないからです。

例えばマザーハウスは台湾に2011年に進出していますが、黒字化するのに約6年もかかりました。日本市場は新しいものに寛容で、大量生産品じゃないものの価値を理解してくれるリテラシーの高さもある。本当に戦いやすい市場なんです。

「日本の市場は縮小するから海外へ行かないと、、」くらいの生半可な気持ちなら、日本に残って稼いだ方がよっぽど成功確率が高いでしょう。

それでも海外に行かなければならない理由と覚悟があるのなら、損失覚悟で「続けること」です。私たちも撤退要件はゆるやかに決めるだけで、あとはリスクをとって「続ける」覚悟を持って参入しています。
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文=伊藤紀行 提供元=DIMENSION NOTE by DIMENSION, Inc.

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