ローリンソンは、ルーシッド・エアの発売にあたりいくつかの目標を定めているが、その一つはこのクルマが、世界最高のEVとして歓迎されることだ。
「誰も信じてくれないかもしれないが、私たちはEVを次のレベルに引き上げようとしている」と、彼は昨年のクリスマス前のズームのインタビューで語った。彼がその日居たのは、ルーシッドモーターズが本社を置くシリコンバレーではなく、イングランド中部のウォリックシャーにある築300年の農家だった。
ローリンソンは今、10年前にテスラでモデルSのチーフエンジニアを務めていた頃と同じ気持ちでいるという。2012年のテスラのモデルSは、自動車業界に旋風を巻き起こしたが、「あの頃は誰も私やモデルSについて信じてくれなかった。驚くほどの敵意も感じていた」と彼は話す。
ローリンソンが間もなく世に送り出す、エアの「ドリームエディション」は、確かに驚異的なものになるようだ。1充電での航続距離は、テスラのモデルSの402マイルを上回る、517マイル(約832キロ)で、停止状態から時速60マイル(約97キロ)までわずか2秒強で加速する性能を持っている(イーロン・マスクは今年1月、年内に発売するモデルSのPlaid+バージョンの航続距離が520マイルになると述べていた)。
しかし、ローリンソンの野望は、約1800万円の高級車を求める富裕層を喜ばせることだけではない。
彼のより大きな目標は、エアの1080馬力の推進テクノロジーを、より安価な車両に広げていくことだ。ローリンソンは5年以内に、4万ドル台半ばのEVを何十万台も販売し、大手自動車メーカーが2万5000ドルの大衆向けEVを製造するのを支援したいと考えている。
これは、彼の元上司であるイーロン・マスクと同じ目標だが、ローリンソンはまずサウジアラビアに最初の自動車工場を建設しようとしている。ルーシッドの株式の3分の2を、サウジアラビアの政府系ファンドが保有している。
富裕層向けのEVメーカーではない
「世間の人々は、私たちのビジネスモデルを誤解している」と英国のウェールズ生まれの63歳は話す。「私たちは富裕層向けの高級車メーカーではなく、年間100万台の車を送り出そうとしている。当社の野望は、世界に大きなインパクトを与えることだ。決してマイナーなプレイヤーを目指そうとしているのではない」
高級感あふれるアルミボディに特徴的な、「マイクロレンズアレイ」ヘッドランプを備えたルーシッド・エアはEV市場の転換期を示す存在だ。このクルマは、リチウムイオン電池の安価化やEV向けパーツの世界的な供給拡大、消費者の関心の高まりなど、テスラがもたらした新たな波の恩恵を受けている。さらに、米国のバイデン新政権はEVの普及促進を優先事項に掲げている。