ビジネス

2021.02.21

テスラの元主任エンジニアが率いるEVメーカー「ルーシッド」の挑戦

ルーシッド・モーターズCEOのピーター・ローリンソン(C)Lucid Motors


バイデン大統領は、連邦政府に対し、政府が保有する数十万台もの化石燃料車をEVに置き換えるよう促す命令に署名した。さらに、何千もの新たな公共EV充電ステーションの建設を約束しており、トランプ政権が廃止したEV購入に対する税制優遇措置も復活させる見通しだ。

大手自動車メーカーはこのアイデアに飛び乗り、GMは、2035年までにすべての新車を電動化し、EVや燃料電池車などのゼロエミッション車にすると発表した。フォードとフォルクスワーゲンも化石燃料からの脱却に向けて積極的な計画を立てている。

長年のテスラ支持者として知られるモルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナスは、2021年の世界のEV販売台数が50%の増加になると予測している。米国のEVの主要市場であり、ルーシッドとテスラの本拠地でもあるカリフォルニア州は、「米国のノルウェーになるかもしれない」と述べている。

人口約540万人のノルウェーは、政府のEV普及策によって新車販売台数の6割近くがEVで占められている。「ノルウェーは、世界の他の国の15年先を行っている。カリフォルニア州が同じ方向に進めば、他の多くの州もそれに続き、クルマの脱炭素化を進めることになる」とジョナスは話す。

ローリンソンは今年、アリゾナ州カサグランデの新工場で少なくとも6000台のエアを製造し、9億ドルの収益を上げることを目指している。価格が7万7000ドルの新バージョンのエアが登場する2022年には、生産台数が2万5000台を超える可能性があるという。

2023年にはグラビティ(仮称)と名づけられた電動クロスオーバーモデルが登場し、その後はテスラのモデル3のライバルとなる、より安価で小型のモデルが投入されることで、さらなる成長が期待できる。

カリフォルニア州ニューアークに本拠を置く非上場企業のルーシッドは、サウジアラビアの公共投資基金PIFから2018年に13億ドルの出資を受け、エアの開発と生産を行っている。同社はそれ以前に1億5000万ドルを調達しており、Pitchbookのデータでルーシッドの企業価値は150億ドルとされている。

しかし、車両の開発には巨額の資金が必要であり、ローリンソンはさらなる資金調達の必要に迫られ、SPAC(特別買収目的会社)を通じた上場も検討中という。彼は以前、SPACを "ダーティーな世界"と考えていたが、その認識も改めたという。ただし、特定のプランについては明かさなかった。

イーロン・マスクから学んだこと


英国の名門、インペリアル・カレッジ・ロンドンで学んだローリンソンは、テスラに入社する前に、ロータスやエンジニアリング・コンサルタント企業のコーラスで先進的な車両の開発に携わった後に、ジャガーに勤務していた業界のベテランだ。

彼は、ルーシッド・エアがいかにしてキロワット時あたり4.7マイルという業界最高の電気パワートレイン効率を達成したのかについて、何時間もかけて楽しそうに説明する。エアのパワートレイン効率は、18万5000ドルのポルシェの電動スポーツカー、タイカン(Taycan)の約2倍で、テスラのモデルSや、それより小型で軽量なモデル3よりも優れているという。

ローリンソンがテスラに入社したのは、同社がガレージのスタートアップから脱却した頃の2009年だった。そして、2010年には同社の副社長で、モデルSのチーフエンジニアに昇進した。「私はテスラに心血を注いでいた」とローリンソンは話す。
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翻訳・編集=上田裕資

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