「コロナ禍にあっても成長を止めず、プロダクトの本格的な量産を進めていくためには大規模な資金調達が不可欠でした。投資銀行の担当者の方々とあらゆる角度から議論を深め辿りついた結論が、『事業価値証券化』という調達スキームの採用でした」
バイオテクノロジーベンチャーのスパイバーが、250億円の大規模資金調達を発表したのは昨年12月末。フォーブス編集部の取材に対し、関山和秀CEOはそう調達の経緯について切り出した。
2007年に慶応義塾大学・先端生命科学研究所からスピンアウトしたスパイバーは、人工タンパク質の研究・開発および量産化技術で世界トップを走る日本屈指のリアルテックベンチャーだ。
人工タンパク質でつくられた素材は、例えばカシミアなどの既存の動物由来の素材と比較しても温室効果ガスの排出量が少ないことが予測されるなど、環境課題に対し優位性を持つ。また動物を殺傷することがない、いわば“クルエルティフリー”な素材であり、現代のビジネスシーンにおいて倫理的な競争力も持ち合わせる。
人工タンパク質は産業領域を選ばない応用可能性や潜在力を秘めているが、スパイバーがまずフォーカスしてきたのはアパレル産業だ。現在、カシミア、ウール、ファー、レザーなど動物由来の繊維素材や、ポリエステルやナイロンなどの石油由来の繊維素材を代替するタンパク質素材「Brewed Protein」の開発・製造を行っており、国内外の有名ブランドとの契約のもと実用化が着々と進んでいる。
スパイバーとコラボした「ユイマ ナカザト」2019-20年秋冬オートクチュール(Estrop/Getty Images)
「これまで使用されてきた石油・動物由来の素材の一部だけでもBrewed Proteinに置き換えるころができれば、温室効果ガスや海洋プラスチックの排出を効率よく抑制することができるようになると考えています。またBrewed Proteinはアパレル製品のみならず、炭素繊維強化プラスチックやウレタンの軽量化にも利用できます。すでに、自動車など輸送機器の素材改良にも着手しているところです」(関山氏)
今回の調達では「事業価値証券化」という、「日本のみならず世界的にも非常に珍しいスキーム」(アレンジャーである三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資銀行部の担当バンカー)が注目を浴びた。
事業価値証券化は株式を新規発行・売却したり、土地や設備などの有形資産のみを担保とするのではなく、企業が抱える知的財産の潜在的市場価値や将来的なキャッシュフローの価値など無形資産などを含む事業の価値を総合的に勘案して、投資家から資金を募る調達スキームだ。いわゆる“株式の希薄化”を回避しながら、大規模な資金調達を実現できるという特徴がある。