増える米国人の飲酒、ストレス対処法なら「絶望死」招く危険も

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アルコールが脳に大きな影響を及ぼすことは、十分に裏づけられている。アルコールはほぼ即座に、ニューロン(神経細胞)間の情報のやりとりを乱す。長期的には、過度の飲酒によって、さまざまなかたちをとる深刻なダメージが生じるおそれもある。

そうした知識があるにもかかわらず、アルコールの乱用は長きにわたって米国で問題になっている。薬物使用による死者数は、2000年から2019年にかけて3倍に増加した。特にアルコールによる死者数は、1997年から2017年までで倍増している。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まって以来、アルコール消費量が増加している。米国の多くの地域で、バーが閉鎖されたり客数が制限されたりしているにもかかわらず、全体のアルコール販売量は、2020年6月の時点で、前年と比べて20%以上増加していた。

それは、余暇の時間が増えたからかもしれないし、孤独感やストレスが増したせいかもしれない。あるいは、そのすべてが原因かもしれないが、いずれにしても、多くの人にとって、この1年でアルコールがストレス対処メカニズムのひとつになったことはまちがいない。

こうした状況は、米国におけるアルコール乱用の原因と影響の解明を担う国立アルコール乱用依存症研究所(NIAAA)にとって、大きな懸念材料になっている。

NIAAAの所長を務めるジョージ・クーブ(George Koob)博士は、コロナ禍におけるストレス対処メカニズムとしての飲酒量増加は、非常に有害な影響をもたらすおそれがあると述べる。そして、対処反応としての飲酒量増加の結果として心理的・身体的に起きていることを、一刻も早く把握しなければならないと指摘した。

クーブ博士は、「絶望死」とも呼ばれる「失意過敏(hyperkatifeia)」についても警告した。アルコール使用障害を患う推定1450万人の米国人のうち、治療を受けている人が10%に満たないことを考えれば、コロナ禍におけるストレス対処としての飲酒の増加は、はかりしれない深刻な影響を及ぼすおそれがある。

失意過敏とは何か?


クーブ博士によれば、失意過敏は「痛覚過敏(hyperalgesia、身体的な痛みを過度に知覚すること)」と似ているが、痛覚過敏が身体的な痛みの領域であるのに対し、失意過敏は否定的感情の領域にあるという。具体的にいえば、アルコールの「離脱(効き目が切れること)に伴って生じる否定的感情の強さや、それに対する感受性が大きくなること」だという(これはアルコールだけでなく常習性薬物にもあてはまる)。
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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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