テーブルに自著やアパの新聞広告が積み上がり、壁には各国VIPとのツーショット写真や賞状、棚には値が張りそうな陶磁器のコレクション。“元谷記念館”と化した本社最上階の一室で、アパグループ代表の元谷外志雄は自社の戦略を語り始めた。
ホテル業界は新型コロナウイルスで大きな影響を受けた。インバウンドはほぼゼロで、国内も県境をまたぐ移動も自粛要請に。それを受けて開業を延期したホテルが相次いだ。
そのなかで異彩を放ったのが、アパホテルだ。新型コロナ感染軽症者受け入れのために開業を延期したホテルはあったものの、20年の27ホテル開業は予定通り。来年も出店計画の見直しはしない予定だ。
競合が守りの姿勢に入ったところでアクセルを踏み続ける戦略は、典型的な“逆張り”だ。なぜそれを“順張り”と呼ぶのか。
「ホテルは、一回つくったら20年30年にわたって運用します。コロナでオリンピックが延期になりましたが、そもそも一過性のイベントには期待していない。1年2年ではなく、大局的見地で考えないとダメ」
元谷の目に映る大きな流れとは、東京という都市の成長だ。
「世界では都市化現象が進行中です。都市化現象の行きつく先は、一極集中。日本でいえば東京です。だから地方には注目しない。いま東京に建設・設計中も含めて77のホテルがありますが、宿泊需要はもっと伸びます」
長期的な視点に立てば、東京を中心とした積極的な展開は順張り。いまは他社が控えているため一時的に逆張りに見えるだけ、というわけだ。
実際、アパの展開は東京に偏っている。全国に展開中の客室数約10万室(提携先含む)のうち、約2万室が23区内だ。「将来、地下鉄の駅にひとつずつ、いや、駅の出口にひとつずつあってもいい」と元谷は笑うが、それが本気なのか冗談なのか、判別つかないほどの集中展開だ。
大局観をどうやって養ってきたのか。そう問うと、元谷は石川県で過ごした少年時代を振り返った。