言い換えれば、雑談。心の距離を縮める「1.5本目のメール」

「お世話になっております」「了解です」「失礼します」──。コロナ禍のリモートワークによって、こんな淡白なやりとりにモヤモヤを感じる人は多いのではないだろうか。

または、期限を過ぎた仕事に対して、遅れの理由が分からず相手に苛立ちを覚えることもあるだろう。隣で働いている様子がわからないからこそ、仕事のプロセスを共有し、温度感のあるコミュニケーションが必要だ。これはリモートワークでも、オフィスワークでも大切な「心がけ」の話である。



メールの返信には、1本目、2本目の間に、1.5本目のメールが存在している──。

仕事において大事なのは、どれだけ相手に、「待たされた」という感覚をもたせないかだ。同じ1週間をかけて同じ答えを出したとしても、「1週間も待たされた」と思われるか、「たった1週間で、ここまでやってくれた」と思われるか。その差は、この1.5本目のメールにかかっている。

言い換えれば、1.5本目のメールは「気づかい」であり「雑談」であり「ネタバレ」だ。

リモートワークが進むなか、日常の業務に欠かせないメールやMicrosoft TEAMS、Slackというデジタルツールに、「あなたをいつでも気にかけていますよ」という温度感をプラスして送ることは、これからより一層意識すべき大切なコミュニケーション作業だと、私は思う。

エンタメ≠ビジネス


第92回アカデミー賞で4冠を達成した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』は、カンヌ国際映画祭のワールドプレミアム前に、異例の「ネタばれ禁止のお願い」を出したことが話題になった。

映画も舞台も好きな私は、学生時代から劇団を主宰し、脚本も手がけていた。私が、初めて脚本というものを書くことになったとき、当時師事していた、日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した脚本家の方に「物語を面白くするには、最後まで隠したいネタを、どれだけ途中でバラさない様に物語をつくりあげていくか」だと言われた。


ポン・ジュノ監督自身の要請に呼応し、SNSでは「ネタばれ禁止運動」が起きた。

結末は、見えなければ見えないほど面白い。だが、エンタメでは最大のポイントとなる「見えない結末」は、仕事における日常の業務では、むしろ逆効果だ。

例えば、クライアントからの業務依頼メール。「デザインはいつ上がるの?」「見積もりはいつもらえるの?」「プレゼンはいつになるの?」

私たちは日々仕事に追われ、少しでも早く結末を見せることを要求される。多くの人は、依頼内容、問い合わせ内容に対する答えを得てから、丁寧な返信をしようとする。確かに、正確な答えを得られるまで時間をかけることは必要だ。でも「答えを得るのに、なぜ時間がかかるのか?」をここでネタバレしてしまおう。
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文=高木盛子 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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