東京の夜を灯す、大吟醸酒の先駆者「獺祭」の果てなき夢

Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は 2月号(12月25日発売)より、「獺祭」をご紹介。米を77%削り、残り23%で醸す、すっきりとクリアな味わいの1本だ。


11月、サザビーズのオークションに出品された「獺祭 磨き その先へ」に84万3750円の値がついたことは記憶に新しい。ほかにも、米国のオバマ前大統領主催の公式晩さん会で使用されたり、酒蔵としては近代的な12階建てのビルでつくられていることなど、話題と噂に事欠かない「獺祭」だが、シンプルに一言で説明せよといわれたら、「山田錦のみを使用する大吟醸酒」となるだろう。

まず山田錦は酒米の王様と言われる品種。全国で生産される山田錦のうち、およそ2割が「獺祭」に用いられるというから驚く。そして酒米を50%まで精米すれば、その酒は大吟醸としての基準は満たすわけだが、「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」は米を77%削り、残り23%で醸す酒。米の中心部にある心白は雑味のもととなるたんぱく質や脂質の含有量が少ないため、米を多く削った吟醸酒や大吟醸酒はすっきりとクリアな味わいになるといわれる。この酒が誕生した1992年には米をここまで磨く酒蔵など他になかったが、約20年たつ現在でも「獺祭」は大吟醸酒の先駆者であり、最高峰であり続ける。もっとも革新的な日本酒のひとつである。

その「獺祭」が東京駅を望む一等地にバーを出店した。日本酒のバーと聞いて、和風なイメージを抱いて出かけたら、これまた驚くに違いない。鉄パイプがむき出しになった壁面に暗い店内……テーブルや人々が手にするグラスは発光しており、NYのクラブもかくやと思わせるヒップな空間。おまけにおすすめは「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」をロックアイスと楽しむ「獺祭ロック」(500円)だという。

「この暗さは旭酒造がある山口県の山あいをイメージしています。都市に暗部がなくなったいま、暗闇はそれ自体がぜいたくな存在。人々が寄り添い、それぞれ灯り(グラス)を持ち寄ることで完成する空間です。日本酒をロックで飲むという新しいチャレンジに、ユニークな形式を与えることができました」と語るのは、この店舗のインテリアをデザインした建築家の川添善行(東京大学生産技術研究所准教授)だ。

実際に「獺祭ロック」を飲んでみれば、カランと氷となじむことでその華やかな香りが立ち上り、よりなめらかな口当たりが楽しめる。日本酒の起源は「日本書紀」までさかのぼるというが、その自由な可能性はまだまだ無尽蔵に秘められているだろう。
手元でぼんやりと青く光るグラスの中に、「獺祭」の果てない夢を見た。

獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分



容 量|720ml
酒 米|山田錦
価 格|5390円(税別参考小売価格)
問い合わせ|旭酒造 (www.asahishuzo.ne.jp/
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photographs by Yuji Kanno | text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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